あけましておめでとうございます。カナリヤです。本日は2021年に発表された音源の中から特に素晴らしかったと感じたものをランキング形式で1位から10位まで挙げていこうと思います。
なお昨年のベスト10はこちら。
さて、ベスト10発表の前にルールとしまして、
- 発表時期は2021年に限定
- シングル・EPも含む
ということを念頭に読んでいただければ。特に2.に関しては記事タイトルからも本来であれば「2021年のアルバム作品から選ぶ」という趣旨を曲げてしまったことは我ながら痛恨の極み。ただ趣旨を曲げてもなお挙げておきたいものがあったのだとご理解ください。
それでは始めます。
10
FLOWER/THE SPELLBOUND
THE NOVEMBERS小林祐介氏とBOOM BOOM SATELLITES中野氏とのロックユニット「THE SPELLBOUND」が5か月連続でリリースした、その最後を飾る楽曲。
現代に甦った賛美歌は音楽という文化の最先端を見ているかのよう。今年2月には1stアルバムの発売が控えており否が応でも期待が高まってくるというもの。
9
we had good times together,don't forget that/Sewerslvt
オーストラリア・シドニーのエレクトロニック・アーティスト。
ドラムンベースにノイズの粒子が乱舞している。不安というものを音にすれば、きっとこんな波形をしているに違いない。凶悪なブレイクビーツはいつのまにか自身の鼓動と同期を果たして、生じる焦燥感は元々持っていたものなのか、これから生み出されてしまったものなのか、判断ができなくなってしまう。それだけ普遍的なものだということなのだろうか。
本作をもってSewerslvt名義での活動終了とのこと。
8
Fake Pleasure Syndrome/Muscle Soul
オルタナティヴ・ロックバンド「Muscle Soul」の2ndアルバム。
ミニマルな音色と陰鬱さを同居させた雰囲気はさながらレディオヘッドを思わせるほどに禍々しい。リズム隊の強固な地盤は本作の持つ空虚さをより前面に押し出している。
7
Wave Elevation/Plasticzooms
オルタナティヴ・ロックバンド「Plasticzooms」の5thアルバム。
昨年THE NOVEMBERSの「At The Beginning」によって頭をかち割られインダストリアルなサウンドに目覚めてしまった僕としては、方向性を同じくする彼らの最新作に心奪われてしまったのは予想された未来だったのだろう。クラブ感漂うアングラテイストな1曲目からラストまで曲調が移り変わっていくグラデーションな構成が非常に面白い。
6
Sturle Dagsland/Sturle Dagsland
北欧・ノルウェイを拠点に活動するSturle Dagslandのデビュー・アルバム。
この叫びの根源は一体何なのか。原始的であり近未来的でもあるサウンドは地続きとなって僕らの起源に訴えかけてくる。
5
Tomorrows Ⅲ/Son Lux
ニューヨーク拠点のエクスペリメンタルバンド。2020年から展開してきた三部作、その集大成。
クラシックから着想を得たイメージを膨らまし捻じ曲げ音の消失すら楽曲に組み込んだ前作から、今作では「Tomorrows」の持つ内側に向けた箱庭的世界観はそのままに外への攻撃性をも付与させた。
4
View No Country/Kraus
NY・ブルックリンを拠点に活動するWill Krausによるソロ・プロジェクト「Kraus」の3rdアルバム。
2nd「Path」での圧倒的な轟音パフォーマンスが今作ではより洗練され、更にひとつ上のステージを駆け上がった印象を与える。その証拠はどこを切り取っても湧き上がってくるこのエモーショナルな煌めきに他ならない。
3
ゴーストアルバム/Tempalay
オルタナティヴ・ロック・バンド「Tempalay」の4thアルバム。
3rd「21世紀より愛をこめて」からも強く感じさせる日本のオリエンタリズム、その土着的発想を全編に渡って響かせる音像はふだん殊更「日本人」を誇ることのない僕にとっても逃れられない郷愁と狂おしいほどの魅力に富んでいる。
2
Big Mess/Danny Elfman
元OINGO BOINGOのリーダーDanny Elfmanが37年ぶりに発表した2ndアルバム。
初っ端からの絶対的なプレッシャーはなんなのだろう。静謐さを保った秘沼に沈んだはずの怪物が、そっと這い出てきたような。突如として現れた王の帰還に思わず奮え、気付けば跪いていたかのような。1曲目を聴いた、たったそれだけで”Danny Elfman”というワンダーランドに引きずり込まれる感覚を抱いてしまう。高尚であるはずなのに、やけに大衆的に映る音像は、荘厳であることを意識させず、あまりにも容易にこの耳にこびりつかせる。
1
To See the Next Part of the Dream/Parannoul
「なに聴いてるの?」「…リリイ・シュシュ」
韓国発ソロ・シューゲイザー・プロジェクト「Parannoul」による2ndアルバム。
シューゲイザーはいつだって僕らに何らかの情景を思い浮かばせてしまう。望もうと望むまいと、半ば強制的にその音の洪水に対して切り取った景色を描写させてしまう。初恋の女の子。初めて買ってもらった楽器。今ほどわずらわしくなかった夏の暑さ。母の手料理。はっきりと言語化できるわけじゃない。したいわけでもない。それらすべてが良い思い出なわけでもない。でも、もはや辿り着けないその場所は明確に愛おしい。
彼の過ぎ去った青春の足音は時に拙く、時に荒々しく、時に優しい。濾過して透明感を増したサウンドはどうしようもなく僕の心を捉えて離しはしない。離したくない。一音だって逃したくない。きっともっと洗練されたものはいくらだってあるはずだ。でも幼さすら覚える本作を1位としたのは僕にとって自然な流れなのだと思う。
以上、2021年度の1位はParannoulの「To See the Next Part of the Dream」としました。全体的な傾向としては自身の内側へと影響を及ぼすような抽象的なサウンドへの傾倒が見て取れますね。自分自身を俯瞰して捉えようとする試みが増えた結果、嗜好にもそれが表れた、とみるべきなのでしょうか。
なんにせよ、今年もたくさんの音楽を知り、聴くことができました。まだまだ世界には僕の知らない音楽が溢れ、世の人々を熱狂させている。そのことがたまらなく嬉しい。今年はついぞ行けなかったライブにもようやく参戦できそうで、今からワクワクが止まりません。
それではまたいい未来で会いましょう。