Nothing is difficult to those who have the will.

エロゲとオルタナ。そんな感じ。ちょこちょこと書き綴っていこうと思います。

Illusion Is Mine 2024.1~2

カナリヤです。日常報告シリーズ音楽編。前回はこちら。

mywaymylove00.hatenablog.com

3月に入ってもまだまだ厳しい寒さが続いております。先月の数日間だけ暖かい日があったの、あれ何だったんですかね。

 

らんど / ZAZEN BOYS


www.youtube.com

前作「すとーりーず」から既に12年。「杉並の少年」や「黄泉の国」、「公園には誰もいない」など数年前からライブで披露されていた楽曲が収録されたファン待望の6thアルバム。現ベーシストMIYA嬢加入後初となる本作は彼女のキワッキワのベースを存分に楽しめるものとなっている。

前任のベーシスト吉田一郎はZAZEN時代から「吉田一郎不可触世界」名義でソロ作品を発表しているが、その作風は明確に「ZAZEN BOYS4」「すとーりーず」を彷彿とさせていた。


www.youtube.com


www.youtube.com


www.youtube.com

その音の広がり、空間を感じさせる音の快楽はこれまでのZAZEN BOYSにはない、バンドとして新たなステージへと前進する要因だったのだろうと推察できる。プレイヤー吉田一郎の思い描く音像は当時の向井秀徳の求める音楽と合致していたということだろう。個人的にZAZEN BOYSのベストアルバムは「ZAZEN BOYS4」だと今でも感じている。


www.youtube.com

話を「らんど」に戻すと、本作の魅力は何と言ってもその鋭利過ぎるグルーブだ。ギター2本とベースとドラムというシンプルな構成。前作からのシンセがなくなったことでいくつもの音の余白が生まれる。そこに差し込まれるエッジさがあまりに圧倒的過ぎるのだ。バンドのセッションが音源を通じて生々しさを帯びている。さながら刀のように美しく、極限まで研ぎ澄まされた異形のファンクがいつまでも耳にこびりつく。音の芳醇さ、味わい深さを是としてきた前作までと比較すると今作は圧倒的に音が少なく、いっそ無駄な音がひとつとして存在しないのではないか、そんな張り詰めた感覚を覚える。                                                                                      

全13曲中9曲にわたって夕暮れや夕日、西日というワードが用いられ、「杉並の少年」では環八道路や大宮神社神田川、「YAKIIMO」では高島平、光ヶ丘団地、練馬富士見台など具体的な地名や象徴が出てくる。そこには人が生き、人々の生活がある。石焼き芋の歌が流れる。それは果たして寂しいことなのか。そこに諸行無常の寂寥感はあるのか。ふるえる寒さは季節のせいか。向井秀徳は何も言わない。何も訴えかけない。ただただ目に映る情景をあるがままに歌い続ける。そこに何かを見出だすのは僕ら次第だ。


www.youtube.com

ガールズ・ハードコア・バンド「BLEACH」のメンバーとして活動してきたMIYA嬢のえげつないスラップはこのメンバー同士の機能美がもたらす「真剣での殺し合い」に絶妙にマッチしている。5年前のライブ、初めてのZAZEN BOYSが今まさに目の前にいる。

mywaymylove00.hatenablog.com

本作を聴くたびに殺伐としていたあの空間の異様さがより鮮明に思い出される。あれはやはり異常な時間だった。異常で歪で、けれどどこか懐かしい。そしてそれがZAZEN BOYSにとっての日常に他ならない。

 

 

Wall Of Eyes / The Smile


www.youtube.com

2020年にRadioheadトム・ヨークジョニー・グリーンウッド、Sons Of Kemetのドラマーであるトム・スキナーによって結成されたバンド「The Smile」の2ndアルバム。2022年に1stアルバム「A Light for Attracting Attention」が発表されてから2年。まだ2年だ。これほどの早さで新譜がリリースされるとは誰も予想できなかったのではないか。彼らの中でこのバンドへの手応えと、そしてバンド活動自体への欲求、餓えがメンバー間で膨れ上がっていっただろうことは想像に難くない。

特にRadioheadは当たり前だが世界的バンドであり、音楽活動はその注目度故に気軽には行えない。動くとなればそれこそビッグマネーが動き、そして大成功以外はすべて失敗と見做される。2016年の「A Moon Shaped Pool」以降だと2000年発表の「Kid A」と2001年発表の「Amnesiac」に未発表曲などを加えて2021年にリリースされた「Kid A Mnesia」くらいしかない。

身動きすることすらままならない彼らにとって「The Smile」という新人バンドは格好のアウトプットの場だったということだろう。


www.youtube.com

前作「A Light for Attracting Attention」では「Thin Thing」など変拍子の楽曲が多く収録されていて本作でも「Under Our Pillows」などに似た傾向は見られるが、その曲自体も後半はプログレ色を強めた印象へと雰囲気をガラッとシフトさせてくる。また「Bending Hectic」の前半部分のメロディアスな印象から後半の悲鳴のようなストリングスで緊張感を演出する構成など、隠しきれない好奇心を見せつけてくるし、その挑戦するマインドが満ち溢れている様は聴いていて非常に満足感がある。Radioheadでは安易に試せないであろうアイディアを無遠慮に気ままに子供のように楽しげにプレイする、その目的の元結成された「The Smile」はこれからも飽くなき渇望をステージで誇示し続けるだろう。


www.youtube.com

 

 

SCRAPYARD / Quadeca


www.youtube.com

「Quadeca」の名で知られるラッパー"Benjamin Lasky"による3rdアルバム。

2022年個人的なベストアルバムのひとつは彼の2nd「I Didn't Mean To Haunt You」だった。順位としては1位であるPerfume Geniusの「Ugly Season」の後塵を拝する結果になったがどちらを上とするかは最後の最後まで悩み続けた。最終的に発表時期が幾分早くその分音源に触れる機会が多かっただけ、という「質」ではなく「量」で評価を下すという個人的に些か締まりのない決定としてしまったのは、後悔がないと言えば嘘になる。まぁ後悔といってもたかだか個人ブログのランキングなんぞ好きにすればいいというだけの話なのだが、甲乙つけがたい作品の順位付けに頭を悩ます時間というのは甚だ無為で、けれど大切な瞬間で、僕にとってはそれはそれは幸福な時間で、だからこそ妥協した事実が重く伸し掛かるように思うのだ。


www.youtube.com

「I Didn't Mean To Haunt You」が僕の心を掴んだのはその圧倒的な静謐さ故だ。ただひたすらに嫋やか終わりへと向かっていく、その過程を描くかのような情景。僕という名の死体にシンシンと雪が降り積もる。空間には音すら消え去り、僕の姿も見えなくなって、やがて全てが土へと還っていく。そこにはもう何もない。僕がいたことすら誰の記憶にも残らない。美しい結末だと思ったし、それはひとつの理想だと思った。別にQuadecaがそれを想起させることを望んでいたかは定かではない。けれど根源には間違いなく「死への旅路」というイメージがあったはずだ。だから身勝手にもイメージを膨らませ、この退廃的な美しさを僕のものと同質と受け止められたことこそが「I Didn't Mean To Haunt You」の価値を押し上げていったのだと思う。


www.youtube.com

本作「SCRAPYARD」は非常に繊細な音のミックスを是としていてそこに彼の愛嬌あるラップが載ることで圧倒的なキャッチーさを醸成している。前作で見せた幽鬼のようなサウンドプロダクションは活かしつつエモーショナルな感情を随所で爆発させている。個人的にラップ調を好みとしていない僕が本作を「キャッチー」だと感じている時点でもはや別格の存在と捉えている節がある。

ただ、欲を言えば、感情的であることは、必ずしも僕の好みと合致していないということだろう。この感情的な爆発が僕自身の感情に多少のズレを生じさせているという点において幾分か残念に思う感覚を覚えてしまったのは事実なのだ。先に述べたように、僕は「I Didn't Mean To Haunt You」のそのイメージに心底惚れ込んでしまったという動かしがたい事実があるからだ。


www.youtube.com

「SCRAPYARD」で想起したイメージは社会での孤立だ。人間関係の軋轢やその脆弱性、自己への絶え間無い不安に駆られる一個の人間。それは僕であり、どこかの知らない誰かだった。伝播する感情は実に多くの人間に共通する感覚で、だからこそそれは果たして僕の、僕だけの感覚なのか、違和感が拭えない。

「I Didn't Mean To Haunt You」に見たものは、まさしくその先だった。社会通念すべてをかなぐり捨て、ひたすら「死への旅路」に邁進する在り様。そう在りたいという願いを音楽という無形の姿を描いてくれたような、いっそ救われたように思えたのだ。

何度でも言うが本作「SCRAPYARD」は素晴らしいアルバムだ。「DUSTCUTTER」の初っ端のサウンドエフェクトとファルセットのハーモニーには一瞬で心を鷲掴みにされたし、「WAY TOO MANY FRIENDS」で淡々と描かれる集団の中での孤独という悲哀は観る者に共感とともに去来する複雑な心境を抱かせるだろう。だからそれを手放しで迎え入れられないことは、狭量で特定の嗜好に固執しがちな、僕個人の答えの出ない問題でしかない。

 

 

She Reaches Out To She Reaches Out To She / Chelsea Wolfe


www.youtube.com

アメリカのシンガーソングライター、チェルシー・ウルフの7thアルバム。

コロナ禍は様々なものを奪っていった。それはこれまで当たり前だった営みであり、触れ合いであり、それを前提に築き上げた文化だった。ありとあらゆる行動に誓約が課せられその鬱屈は社会全体に徐々に徐々に積み上がっていった。2020年に爆発的な拡がりをみせた未曾有の感染症は留まるところを知らず、現行社会を映す鏡たるアーティストたちの各々の作品を見れば、彼らの作品世界にも少なくない影響を与え続けたことは明らかだった。

世界中がこの終わりのない停滞に疲労感と締念を抱きつつあった中で甚だ不謹慎ではあるが、僕はこの混乱をどこか比較的穏やかに、いっそ他人事のように眺めていたように思う。なぜなら僕個人の生活にはそこまで変化をもたらすことはなかったからだ。元々世捨て人のような感覚を捨てきれず社会の中で生活していく日々は、進化し続ける時代の中でそれに対する鬱屈した閉塞感を膨らませていったし、適応できないことを日々突き付けられることは度し難いストレスだったのだ。だからこそその社会が崩壊していく様は、いっそ痛快ですらあったかもしれない。


www.youtube.com

その混乱の最中に発表されたTHE NOVEMBERSの「At The Bigenning」は前作「Angels」におけるインダストリアルサウンドを更に昇華させ近未来感を前面に押し出したことでより機械的サウンドへと深化させていた。この容赦ない暴力と美しい歌声が同居する音楽の存在は対照的で、その剥離を美しく思えることがなによりも嬉しかった。コロナ禍で鳴るに相応しい曲たちだとも思えたものだ。

コロナ禍における終わりの見えない束縛を強いられている誰かは僕のこれまでの日常に他ならず、僕と同じ場所まで顔も知らない他人が次々と降り立ってきたような感覚に、不謹慎にも灰暗い興奮が沸き立ったことは否定できない。そして、徐々に徐々に僕が苦々しく思う皆の望む日常へと回帰していき、解放感を露わにしていこうと、あの日々を忘れ去ろうとする感覚には拭いきれない違和感が付き纏う。偏に僕自身の鬱屈さ故に。


www.youtube.com

本作「She Reaches Out To She Reaches Out To She」はエレクトロニカドゥームメタル、インダストリアルなどの要素をふんだんに盛り込みながら「ゴス」という一本の軸を突き刺し、暗い暗い海の底から這い出たかのように暴力的に展開していく。このどこまで行っても沈み行く、浮上のきっかけすら見出ださせない感覚は僕の求めた、退廃的で荒れ果てた、陰鬱とした暗澹たる世界観だった。

ディストピアめいた音像世界と、それに似つかわしくない彼女の落ち着き払った柔らかで美しい歌声の対比はおよそ現実感に乏しい感覚を覚える。その歌声に、船頭を誘惑し破滅に追い込むローレライを想起させたのは僕だけではないはずだ。

僕は決して音楽を聴いて気持ち良くなりたいわけではない。ただ単純にこの一向に解放されず落ち着かない心の置き所を誰かに指し示してほしいだけなのかもしれない。

それはきっと「At The Bigenning」であり、「She Reaches Out To She Reaches Out To She」なのだと思う。

 

 

 

こうして最近の音楽的嗜好を書き出してみると、ここのところの僕は未知を疎い、既知を求めるフェイズなようです。こうした所謂守りに入るようなムーブは割と定期的に訪れはするものの、もしかしたら根が深い問題なのかも知れません。

それでは。