Nothing is difficult to those who have the will.

エロゲとオルタナ。そんな感じ。ちょこちょこと書き綴っていこうと思います。

彼らに課せられた"光に満ちた輝き"という新たなハードル。遅ればせながらART-SCHOOL 10thアルバム『luminous』の雑感を書いてみる。


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初っ端のホワイトノイズを聴いた瞬間にもうダメだった。虜にされてしまった。木下理樹の、ART-SCHOOLの新譜の最高の幕開けに子供のように興奮してしまった。

フロントマン木下理樹の体調不良により活動休止していたART-SCHOOLはEP『Just Kids.ep』で3年ぶりの復活を果たした。愛すべき鬱ロックバンドの帰還を喜ばない選択肢なんてものは僕にはなかった。mywaymylove00.hatenablog.com

その一方で、音楽的側面から『Just Kids.ep』を評価するような言葉を僕はついぞ口にすることはできなかった。いや、する必要がなかった。彼らが帰ってきた。思考停止するには十分な理由だった。遅ればせながら彼らの復活作に対する当時の反応を見てみるにどれも好意的なものばかりとはいかなかったようだ。そして僕自身振り返ってみれば、身体は思いの外正直な反応を示していた。待ちに待った復活作は、忙殺される日常と日々生み出される音楽にあっという間に埋もれてまともに聴き返すこともしなかったのだから。軽やかで優しさに包まれた音楽は緩く穏やかで、それは確かに誰かの求めた音楽ではあったのだろう。ただそれに対して言葉にしなかっただけで僕は既に残酷なまでに答えを出していたのだ。

 

ART-SCHOOLの音楽に僕らが魅了されたのは、彼らが基本的にシンプルな構成を是としてきたからだろう。木下理樹の描く感情を揺さぶるストレートなメロディに、木下理樹の描く男女の生々しさ。木下理樹のもがき苦しむように吐き出す歌声に、心臓を鷲掴みされる思いを抱くからだ。そして音楽マニアらしく様々な音楽からの影響を絶妙に絡ませた木下理樹の音源をメンバー全員でバンドサウンドに昇華させていく。時にいがみ合い会話も無くなるほど互いに主張をぶつけ合いながら完成させていく彼らの音楽に、僕はいつまで経っても魅了されてしまうのだ。


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本作は木下理樹の悲痛な叫びにリンクする悲鳴のような戸高氏のギターの歪みと、日本でも有数のリズム隊に支えられ、随所で衝動を抑えきれない激しさと二人の絡み合いもつれ合う退廃的な愛の儚さを見せてくれる。1st『REQUIEM FOR INNOCENCE』2nd『LOVE / HATE』の荒んだ美しさに、4th『Flora』の柔らかさが加わったような…いや、それとも逆なのだろうか。『Just Kids.ep』で殊更フォーカスされた優しさに満ちた光に、鋭利さというエッセンスをいかに際立たせていくか。その根幹がブレないからこそM-2「ブラックホール・ベイビー」やM-10「 In The Lost & Found」の5th『14SOULS』を思わせるスリリングなアプローチが破綻なく成立している。ヘビーで攻撃的な疾走感はそうして違和感なく落とし込まれたことで本作の面白さを飽きることなく堪能できる。

面白さと言えば、5th『14SOULS』に収録されたM-13「Grace note」以来となる戸高氏ボーカル曲という遊び心も非常に良い味を出している。ギターサウンドを全面に押し出したM-6「Teardrops」や軽やかなアルペジオが紡がれるM-8「Heart of Gold」の爽やかさはボーカル木下理樹だけでは抽出できない、一息つけるポップさの構築に一役買っているのだ。


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瞬間的にこの音達がどうしようもなく好きだと思った。これはきっと、木下理樹だから、ART-SCHOOLだから、では、ない。このヒリヒリした焦燥感に全身を貫かれる感覚と、枯れ果てた身体を抱きしめられるような、そんな心をグチャグチャにされる感覚が、笑ってしまうくらい好きなだけなんだと気づいた。


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これまで聴いてきたART-SCHOOLを地続きで好きな自分と、初めて聴いたかのようにART-SCHOOLというオルタナティヴ・ロックバンドの生み出す音像に現在進行形で魅了されている自分が併存していることに心底困惑している。時を経てまたしても彼らに衝撃を与えられていることが嬉しくてたまらない。「ニーナの為に」を聴いてART-SCHOOLから目を逸らせなくなった自分が今ここにいる。本作の瑞々しさは、彼らの新譜をプレーヤーにかけその音に打ち震えながら心臓の鳴る音が一向に止まない感覚に同期している。もっともっと、と彼らの音を求める自分がいる。『luminous』という名盤はこれからの彼らに対しての妥協のないハードルとなった。