Nothing is difficult to those who have the will.

エロゲとオルタナ。そんな感じ。ちょこちょこと書き綴っていこうと思います。

年の瀬なので、2023年ベストアルバム10を発表してみる。

カナリヤです。今年も残すところあと僅か。皆様いかがお過ごしでしょうか。本日は2023年に発表された音源の中から特に素晴らしかったと感じたものをランキング形式で1位から10位まで挙げていこうと思います。

 

なお昨年のベスト10はこちら。

mywaymylove00.hatenablog.com

さて、ベスト10発表の前にルールとしまして、

  1. 発表時期は2022年に限定
  2. フルアルバムのみに限定

ということを念頭に読んでいただければ。また上記の条件に合致していないながらも、ここでどうしても挙げておきたかったものを番外として選出しました。

 

それでは始めます。

 

番外

kimi wo omotte iru / kurayamisaka


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東京大井町出身のオルタナティヴ・ロックバンド「kurayamisaka」による1stミニアルバム。

本作において幾度となく登場する「私」がいずれにおいても同一人物であるかは不明だが、別離への感傷を抱いている点は同様だ。目を逸らし、ふざけたようにステップを踏む。明瞭な言葉にすることを惜しみ、胸に仕舞う。最後にはあんなに時間が余っていたのに、と思いの全てを伝えきれなかったことへの後悔の念さえ抱く「私」に対して、僕が抱くのは一種の清々しさだった。

いつかの僕にも確かにあったのだ。恐らくは劇中の「私」のように別れから目を逸らしつつも夕日を背にいつもの一日が終わり口惜しく思う気持ちと、それでも「また明日」と級友に軽く手を挙げてその日常が明日以降も続いていくのだと信じて疑わない日々が。跳ねるように歌う女性ボーカルはあまりにもクリアで思春期の普遍的なそれとして自然と受け止められてしまう。苛烈で駆け抜けるようなギターサウンドを軸としつつもメロウさを失わない彼らに泡(あぶく)のようなえも言われぬ感情を抱かずにはいられない。時間は有限だ。けれど無限だった時は確実にあったはずだ。現実だろうと理想であろうと、濾過したように切り取った情景の美しさがそこにまざまざと蘇るのだ。

本作はミニアルバムということで選外とさせて頂いた。

 

 

 

10

Overside / kasane vavzed


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kou / kizumono名義でボカロPとしても活動するkasane vavzedの2ndアルバム。

僕は所謂保守的な人間だ。特別必要だと思わないものや新しいものにそこまで食指は動かない。安定した環境を捨てて自ら生活を変えようなんてさらさら思わないし、それを阻害するだろうモノには最大限の警戒をする。なぜなら「分からないモノ」は怖いのだ。理外にあるものをどう受け止めて良いのか、皆目検討もつかない。

けれど新しい景色を見せてくれるのは大抵が自身の理解が追い付かないものだろう。あるいは嗜好に共通する「何か」を見出だすことさえできれば、たちまち無視できない存在として昇華していく。

冷たく、ひたすらに蠢くビートに、無機物であろうとするように過剰にエフェクトされたボーカル。才能というものはこんなにも恐ろしい姿をしているのか。kasane vavzedの仕掛ける脳を揺らすサウンドスケープは、凡そこれまで僕の好き好んできた感性からは大きく掛け離れている。分からないものは怖い。これまでの僕が壊されてしまいそうだから。でもこの恐怖に触れてみたいと思う僕の欲求を無視できない。kasane vavzedはこんな僕の狭量な嗜好をぶち壊す、新機軸となるのだろうか。

 

 

行 / 5kai


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京都出身で現在は都内を中心に活動するオルタナティヴ・ロックバンド「5kai(ゴカイ)」による2ndアルバム。

ミニマル故にソリッドな音像を突き詰め飽きさせないリズムを備える彼らには、もはや使われすぎて凡庸でありきたりと言ってもいい「唯一無二」という表現を真っ先に思い浮かべてしまう。downyのように様々な手法で肉付きを増していくインディペンデントさとは異なり、極限まで削ぎ落としても彼らの色を失わない。むしろどこまで行けるのかを試すかのように。ひとたび彼らの音楽に触れた瞬間、適性ある人間は呼応し、ゆっくりとその世界に侵食される。それはきっと僕だけではないはずだ。

 

 

 

あのち / GEZAN With Million Wish Collective


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ロックバンド「GEZAN」の前作から約3年ぶりとなる6枚目のアルバム。今作は「GEZAN With Million Wish Collective」としての作品。

GEZANの呼びかけによって結成されたコーラスチームを加えた彼らによる圧巻のパフォーマンスの模様はFUJI ROCK FESTIVAL 2021にて一足先に味わっていた。赤々と燃えるようなステージで生命の息吹を数の暴力によって体言する。その土壌のなかでマヒトゥ・ザ・ピーポーによる歌声は無邪気にも映りつつ彼らの戦いの歌は一層熱を帯びていく。コロナで失った身体性を、忌避されていた「声」で再び取り戻していくように。

MVも公開された「萃点」ではなんでもない日々の情景が挿入され、その中でバンドメンバーが赤い塗料を塗りたくった異様な姿で昼夜問わず踊り狂い、歌い、何かを訴えかける。生活を戦いと呼ばざるを得なくなった狂った時代において、あの時の日々を取り戻すための正気を失いかねない儀式を思わせる。いや儀式のよう、ではなくまさしく儀式なのだろう。あからさまなメッセージ性は目を背けることを決して許しはしない。

けれどその戦いの唄は「萃点」を境に次第に変化していくのだ。前半は閉塞されていく世界に向けてリアルな怒りの叫びを。後半は世界の歪みがいつの日か矯正されていくことへの希望の祈りを。

GEZANのような人々の進むべきひとつの方向性を指し示すことを厭わない存在は、これからもその優位性を世界に訴え続けていくことだろう。

 

 

 

Burned Car Highway Light Volcanic / Prizes Roses Rosa (p rosa) (panda rosa)


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「Panda Rosa(パンダ・ローザ)」、「p.rosa」あるいは「p rosa」、現在は「Prizes Roses Rosa (p rosa) (panda rosa)」の名義で様々な音源を発表し続ける、オーストラリアはメルボルン在住のベンジャミン・フィチェットによるアルバム。

なんだろう、これは。不思議な作品だ。全編を通じて特徴的なパーカッションがこんなにも鮮やかに耳に残るというのに特別秀でたドラミングとも思えない。激しく映るサウンドも随所に透明さを際立たせ、決して領分を犯そうとはしない。閉じた世界で存分にその美しさという牙を研いでいる。陶酔感の極致がここにある。

シューゲイズ的なシンセもムーディーな混声ボーカルも、多種多様に鏤められたサンプリングもなにもかも。それらはただ単純にそこに在るだけだ。母なる海がそこに在るように。本作の主体があくまでも「大海」という圧倒的な軸により構築されていることを意味する。「Through」の終盤、まるで深海の底を漂うかのような美しさは必聴だ。目を閉じて、ひたすらに揺蕩え。2時間弱という長尺が織りなすこの大作がもたらすアンビエントな音楽体験、その受動的なスタンスこそが最も本作を味わい尽くせる方法だ。

 

 

 

After the Magic / Parannoul


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韓国発ソロ・シューゲイザー・プロジェクト「Parannoul」による3rdアルバム。

今手の中にあるものがいつか失われてしまうことへの本能的な忌避感。流れ星。夢の中だけの奇跡の邂逅。しばらくの間明るく輝いて、その後何事もなかったかのように消えてしまう、それはまるで魔法のような。

2nd「To See the Next Part of the Dream」における少年期と青年期の狭間の瑞々しさから一転して万華鏡のような煌びやかなサウンドスケープで描かれる本作は2ndからの脱却を目指すかのようなParannoulのアーティストとしての正統進化を思わせる。過去の情景の美しさだけではなく、今目の前にある、あなただけの美しさを。

 

 

 

THE NOVEMBERS / THE NOVEMBERS


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オルタナティヴ・ロックバンド「THE NOVEMBERS」による3年ぶりの9thアルバム。

パンデミックも徐々に落ち着きを見せ始めライブイベントも活発になってきた昨今、ライブを主戦場としてきた彼らがセルフタイトルのアルバムをリリースしたというのは非常に大きな意味を持つのだろう。M-1「BOY」やM-3「誰も知らない」といった序盤のオルタナ色の強い楽曲構成という観点からも前作「At The Beginning」のコンセプト重視よりも彼らの音楽的ルーツを顧みる、見つめ直す意味合いの強い作品だったのではないか。けれど彼らの新しい側面が全く無かったわけではない。後半からはM-6「GAME」の力強いドラミングやM-8「Cashmere」のベースフレーズを絡ませた曲調、M-9「Morning Sun」のシンセポップなど、新たなアイディアを楽曲に昇華させている。彼らのバンドとしての経験値がこれでもかと活かされた、彼のこれからがいい未来であることを予感させる一枚。

 

 

 

luminous / ART-SCHOOL


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オルタナティヴ・ロックバンドART-SCHOOLの10thアルバム。

「喪失」はART-SCHOOLの抱える根源的なテーマだが活動休止を経ての本作は「再生」というこれまでにはない瑞々しさすら漂う、非常にポップな性質を兼ね備えた稀有な作品となっている。4thアルバム「Flora」をアップデートすることを出発点とした本作はリードトラックこそシューゲイズサウンドを軸としながらもアップテンポの曲が多く収録されていることがそのポップさを際立たせていると言っていい。「Flora」と同様に益子樹氏がエンジニアに起用されているものの、疾走感がより強調されている点はサポートメンバーとして中尾憲太郎氏、藤田勇氏の両名が加わっていることが何よりも大きな違いなのだということを改めて感じ入る。陰鬱な歌詞性とそれを顧みないポップな音像。先日のKINOSHITANIGHTで披露された圧倒的な爆音はその極致だった。

 

 

 

Stepdream / quannnic


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フロリダ出身の若干18歳「quannnic」による2ndアルバム。

2022年リリースの前作「kenopsia」ではギターを軸としたシューゲイズサウンドを軸としつつパンデミックの影響もあってか鬱々とした情景を全面に押し出し内へ内へと潜っていくローテンポな曲が多く収録されていた。最新作である本作ではシューゲイズという軸は変わらずもグランジ、メタル、フォークといった多方面の影響を強く感じさせる。音圧は鮮やかで豊潤。けれど懐かしさの中にいる。違和感なく身体に馴染むのだ。まるで子供の頃の宝物を詰め込んだクッキーの箱を開けたときのような柔らかくも暖かな。僕自身徐々に徐々に嗜好を広げている自覚はあるものの、やはり根底にはオルタナティヴ・ロックという土台があるのだと思う。

 

 

 

ATTA / Sigur Rós


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アイスランドのポストロックバンド「Sigur Rós」が10年ぶりに発表したスタジオ・アルバム。

これまで様々なミュージシャンの数多くの楽曲を聴いてきた中で、スケールの大きさを曲にまるごと納めたような旋律には(僕自身のイメージの貧困さも多分に影響しているだろうけれど)まるで判で押したように「海」というイメージを連想させてきたように思う。母なる海、全身を柔らかく包み込むような優しいイメージと本作とでは微妙にズレた印象を与える。それは偏に本作全体で極限まで削ぎ落とされた最小限のドラムパートがそうさせているのではないか。

単体であれば無機質に聴こえるドラムも、時に曲に寄り添うようなリズムで全体を穏やかに包み込み、時に殺伐とした冷たいリズムで激しく荒々しく僕らを引きずり込む。こと一定以上のスケールを要する曲に関して言えば、屋台骨足るドラムという存在はリズム隊という役割を飛び越えて「海」というものへの「郷愁」と「畏怖」そのものを担ってくれていたのではないか。だが、本作にはそれが圧倒的に不足している。荒れ狂う大海原も穏やかに揺らぐ波打際すら、この音像には抱けない。ここで描いているのは、きっと血の通う「生」ではないのだ。

そこにあるのはただただ荘厳で、聴くものを別世界へと導く硬質なサウンドスケープが在るだけだ。何人も侵すことの出来ない聖域とは、なんて美しいのだろう。そこには懐かしさもなく、恐怖もない。祈りとは、何かを願うことよりも、在り方そのものなのだと訴えかけてくるように。人の手には依らない自身の感性を超越したような象徴的な美しさに、僕は今圧倒されている。

 

 

 

Resistance & The Blessing / world's end girlfriend


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前田勝彦氏によるソロユニット「world's end girlfriend」が全てのライブ活動を停止し制作した7年ぶりの新作アルバム。多種多様なレイヤーで紡がれる本作は氏にとってアルバムという表現を極限まで追求した集大成とも言うべき作品。ただ綺麗なだけではなく、無垢なだけではなく、鋭利なだけではない。過去現在未来に渡って描かれる男女の人生の起伏。生と別れ、誕生と死、痛みと栄華、怒号と子守唄、驟雨と木漏れ日。まるで彼のこれまでの音楽家として得てきた経験全てと客観的な事実としての音楽的歴史とをジャンルを飛び越えて内面外面の両方を駆使して表現しているかのよう。情景を心に思い浮かべるのではなく、今そこにある景色に身を投じているような現実感を見せつけてくる。

先ほどSigur Rósシガー・ロス)の新譜を雑踏の中で聴くことを躊躇う音楽と僕は評したが、本作はむしろ雑踏の中で、日々の営みが紡がれる中でこそ聴きたい音楽だと感じた。茹だるような暑さの中を聴くのもいいだろう。灯が消え、音の消えた街に添えるのも悪くない。役割を終えた建造物が無残に破壊される様には寂寥感と新たなる未来への礎となった感謝の念を。すれ違った男女が手を繋ぎながらお互いにしか聞こえない距離で愛を囁く。笑顔と怒りと涙と締念が巡る輪廻の中で音楽と雑踏とが混ざり合い、そして、その全てが等価値となっていく。

本作発売に先駆けて『144分間の暗闇爆音強制視聴会』と題しアルバム全編を映画館で上映するイベントが開催された。参加者の感想で特別気になったのは「目を閉じても構わない自由が嬉しかった」という一言だ。

Sigur Rósシガー・ロス)の序文で映画館への忌避感を語った身からすれば、緩やかな感性の死を嘆いていた自分の心が軽くなった気分だ。目を閉じてもなお「world's end girlfriend」の音と詩は失われない。むしろ能動的に目を閉じダイブさせることで思考は更に加速する。深化する。

それぞれの物語で彩った全35曲の大作は僕のこれまでのちっぽけな音楽感においても深い爪痕を残すだろう。昨今はアルバムと銘打っていても30分台の作品も珍しくはなくなった。集中して耳を傾けるにはちょうどいいサイズ感なのかもしれない。"捨て曲"などと蔑まれ"冗長だ"と断じられてしまうよりはよほどいい。そういうことなのかもしれない。けれど僕は聴きたい。壮大なスケールで描かれる数多のテーマを。制作者の様々な表情と遊び心とを覗かせる"冗長な"作品を。聴いた僕が答を出せるかどうかではなく、その思いに浸り続けていたい、という感覚を捨てきれない。インスタントに消化するのではなく、僕の血肉となって欲しいのだ。

「world's end girlfriend」は時流に抗う。レジスタンスを掲げ奏で続けるのだ。特定のジャンルへの嗜好や苦手意識、それら全てを灰燼に帰すが如く、遍く音楽好きへの祝福を奏で続けるために。

 

 

 

というわけで2023年映えある一位は「world's end girlfriend」の「Resistance & The Blessing」でした。色々バタついていたせいか、そこまで枚数を聴き込めていない中で思いの外豊作だったこの一年。清濁併せ持つような日常に寄り添ってくれた「Resistance & The Blessing」が僕の中で最も大きな存在だったかなと思います。

2024年も2023年に負けないくらいの甘美な日々を願って。

それでは、良いお年を。