Nothing is difficult to those who have the will.

エロゲとオルタナ。そんな感じ。ちょこちょこと書き綴っていこうと思います。

年も越したので、2022年(にプレイした)ノベルゲーベスト10を発表してみる。

カナリヤです。あけましておめでとうございます。本日は2022年にプレイしたノベルゲーのなかで特に面白かった作品をランキング形式で10作品挙げてみたいと思います。

なお昨年の年間ベスト記事はこちら。

mywaymylove00.hatenablog.com

さて、ベスト10発表の前にルールとしまして、

  1. 発売時期は問わない
  2. 2022年内にプレイしたものに限定
  3. 再プレイ作品は含めない

ということを念頭に置いて読んでいただければ。

 

それでは始めます。

 

第10位

犬神使いと少年

www.youtube.com

サークル「活動漫画屋」作品。妖怪や民俗学を題材に「人間」の深層心理に迫っていくサスペンスもの。作中で登場する犬神やコックリさんなどの怪異を逐次出典を示して丁寧に描写し現実に落とし込んでいくのは非常に読み応えがありました。目の前にある"理解できないもの"を"怪異"と呼ぶことで、自身と距離を保つと同時に心の平穏を図る。そのおぞましさ、居心地の悪さは内面を詳らかにしてしまうビジュアルノベルと非常に相性が良い。

 

 

 

第9位

佐倉家異聞「万華鏡奇談」「朧月夜鬼談」

egoismfactory.client.jp

サークル「かつみや」作品。フリーゲーム。地方の名家「佐倉家」に纏わる奇怪な出来事を綴った和風ホラーADV。村の因習。忌み子。鬼子。狐憑き。そして禁忌。それらが織りなす複雑な人間関係は閉塞感に苛まれた「人間」という存在への恐怖に彩られ、耽美な文体の美しさも相まり不気味なほど読む人の情緒に訴えます。テキスト演出も非常に凝っていて突然下から出てくるなどホラーならではの「どうなるのか分からない」恐怖感を助長させていましたし、またヘッドホン推奨というだけあってBGMや効果音はもちろんのこと効果的に差し込まれる音声が臨場感を演出していたのも、ヒタヒタと忍び寄る恐怖心を煽っていましたね。

ゲーム版は第二話までという中途半端さ故にこの順位に落ち着きましたが、完結まで描かれるのあれば上位に食い込んでくることでしょう。…ということで第三話以降のゲーム化もお待ちしています。

 

 

 

第8位

イハナシの魔女

www.youtube.com

サークル「Fragaria」作品。沖縄離島ノベルADV。突如として沖縄の離島で生活する羽目になったメンタル強めの男の子と日本の常識が通じない謎の褐色美少女とが織りなす青春ラブコメ。「ボーイミーツガール」って幾つになっても心躍る謳い文句だなとつくづく。

奪われた者同士が支え合う日々も、今まさに夢を奪われようとする者に救いの手を差し伸べたり、時に歪みきった自己肯定が安寧を取り戻すシナリオも、運命に抗う青臭い少年少女たちの苦悩も、なにもかもが爽快感に溢れていました。ド直球の王道物語は終わってしまったという喪失感の度合いで価値が測れるというもの。短くも濃厚な「生」の物語は非常に満足感に満ちています。

 

 

 

第7位

音無き世界その代わり

unclesheepclub.web.fc2.com

サークル「羊おじさん倶楽部」作品。言葉無き者たちのための断罪ADV。世界から悲しみが消えることを願う男と音を持たない少女が、『言葉』によって翻弄されていく物語。三人称による丁寧に事実を淡々と羅列していく文体は、目の前の不幸を優しく洗い流してくれますが、同時に残酷な真実をも白日の下に晒すのです。彼らの弱さは目を背けたくなるほどに悲しさに満ちていますが、それを許さない彼女たちの曝け出した怒りはその弱さを肯定するものではありませんでした。だからこそ、僕はこの物語に惹かれ続けるのでしょう。

 

 

 

第6位

CODA

サークル「Summertime」作品。フリーゲーム。閉塞感に満ちた近未来のディストピアで少女たちが苦悩し葛藤する姿を巧みに描写していくSF百合ノベルゲーム。僕らが当たり前と思っているものが彼女たちには当たり前ではない。僕らが不思議に思うものが彼女たちには不思議でもなんともない。彼女たちも感じているであろう息苦しさが一体何に起因するものなのか、気づいていながらもそこから抜け出せないもどかしさは当事者ではない僕たちをも巻き込んでいきます。

同サークルの作品に形を変えながらも常に纏わりついてくる閉塞感は本作でも健在なれど、「彼女」の思慕の念はある種の救いのように、心を軽くしてくれるのです。

 

 

 

第5位

夢を確かめる

サークル「ヤプシ街道」作品。3人の主人公と「YTI(「夢を」「確かめずには」「いられない」)システム」が織りなす群像劇。奇跡のような偶然からプレイできた本作は噂に違わぬ魅力と同人ゲームらしい意欲を兼ね備えたまさしく傑作でした。随所で見せるアクの強さはお世辞にも一般的とは呼べませんが、構成の妙と言うべきものをこれほどまでに実感できる作品はなかなか見当たらないのではないでしょうか。物語に飢えた、というよりもノベルゲーを過去やり込んだ人にこそ是非遊んでもらいたい、そしてすべての前提がひっくり返る瞬間を目の当たりにしてもらいたい…そんな一品です。

 

 

 

第4位

BLACK SHEEP TOWN

www.youtube.com

サークル「BA-KU」作品。ギャングが統べる一つの都市を巡って紡がれるSFビジュアルノベル。多種多様なキャラクター達の信念と価値観が織りなす群像劇はそれが悲劇であれ喜劇であれ、いかなる結末を迎えようともひたすらに眺めることしかできない僕たちを揺さぶっては、忘れられないしこりを残していきます。

物語のジャンル的にも本作の監督・脚本を務める瀬戸口廉也という作家性からしても、内面に迫りながらも残酷に登場人物を必要以上に描写するのは目に見えていたことだし、それを読者も望んでいたことだと思います。ただその中でも数多くの登場人物たちの視点を描写している点や超能力といった要素はこれまでの瀬戸口作品からすれば思いの外エンタメ方向に舵を切った感があり、氏の新境地とも言えるのではないでしょうか。

本作の「物語のおわり」を読み終わり、去りがたさからTIPSに隈なく目を通しては終わってしまった事実を受け入れられずにいる僕は、この物語を十全に楽しんだと胸を張って言えるのだと思います。年内最後に相応しい、実に重厚なお話でした。

 

 

 

第3位

幻想魔境奇譚

www.youtube.com

サークル「かつみや」作品。今回2作目のランクイン。瑞々しく幻想的なタッチの絵と感性を刺激する文学的なテキスト、そして躍動感ある多彩なスチルとの相性は抜群で、瞬く間にこの独特な世界観に取り込まれてしまうでしょう。彼に訪れた不幸。望外の僥倖。幸福の定義。「ロビン」という仮称の男の視点から紡がれる未練がましくも美しい物語の末に訪れる彼の慟哭の場面は、ノベルゲームの中でも屈指の名シーンだと思います。

 

 

 

第2位

西暦2236年

www.youtube.com

サークル「Chloro」作品。わたしをフカンするノベルゲーム。コミュニケーションツールが高度に進化した作中世界においてあらゆる意味で希薄になってしまった自己。そんな世界で奇跡のような出会いは、まさしく夢のよう。

ハル・シオンという少女への思慕は美しい道筋でした。そうなることが当然で自然で見え透いた真実。劇的で、その実平凡で、一途で愛おしく映る物語は、遍く世界に共通する美しさ。彼の見つけたひとつの答えは、だからこそ、腑に落ちる。俯瞰するのだ。誰に引きずられることなく。

 

 

 

第1位

ヴィザルの日記

amagasahigasa.sakura.ne.jp

サークル「雨傘日傘事務所」作品。港街セントサウスを舞台とした群像劇。預言者によって創られた記憶を知る事が出来る木偶人形「コルク」と、自らを買い上げ自由を手に入れた元娼婦「ヴィザル」、そして街の娼館主「サブナック」、その娼館主の秘書「フラウロス」、街の衛兵にいつも捕まっている呑気な街娼「メイコ」、街娼の用心棒「クリノラス」など。個性豊かな登場人物によって紡がれる日常はいつも明るく穏やかで、まるで永遠に続いていくように思えます。

日常の価値というものは、これみよがしに語るべきものではないのでしょう。当たり前に存在するからこそ、あっという間に過ぎ去り奪われてしまうからこそ、セピア色に輝きながら、いずれは過去の遺物となっていく。

誰もが忘れていくなかで、誰もが奪われていくなかで、コルク先生だけがその価値を慮り、憤慨する。語られないその価値に慈しみをもって誰かの代わりに訴えてくれる。

 

 

 

ということで2022年の1位に選出したのは「ヴィザルの日記」です。今年も非常に選出が難しい年となりました。名作ばかりをプレイするとこうなるのは目に見えていたのに、泣く泣く選外とする苦渋の作業を今回もやる羽目に。差はほんのわずかではありましたが、「最も感情を揺さぶられたのはどれか?」という点を考慮して上記の順位としました。当然ですが、僕以外の人であればまた違った順位になったでしょうね。

総括としてランキング記事を上げるようになってこれで3年目。ああでもないこうでもないと自分の心に問いかける行為は自分のことだからこそ逃げられませんし、充実感を抱きます。今年もまた同じことを繰り返すんじゃないかと思います。2023年も2022年以上に素晴らしい作品に出会えることに期待しつつ、稿を締めたいと思います。

それではまた。