Nothing is difficult to those who have the will.

エロゲとオルタナ。そんな感じ。ちょこちょこと書き綴っていこうと思います。

最近あなたの暮らしはどう 2022.10

カナリヤです。日常報告シリーズ同人ゲーム編。前回はこちら。

mywaymylove00.hatenablog.com

近頃めっきり寒くなりましたね。最近かっちょいいワイドパンツをセールで購入しましたが、生地が薄くてとてもこの季節では履けそうもないので使う機会のないままタンスの中にしまい込みました。そうか、だからセールだったんだね(遅い)。

 

夢を確かめる

サークル「ヤプシ街道」作品。例の騒動で一躍名を馳せた同人ノベルゲーム。当方、恥ずかしながらこの一件で初めて存在を知りました。界隈では隠れた良作ゲーと謳われていたものの入手方法がほぼほぼ存在しないという「幻の作品」として評判だけが独り歩きしていた状態でしたが、この騒動がなければおそらく大半の方がプレイすることはなかったのではないでしょうか。期せずして本作を味わえたことは僥倖と言うべきものでしたが、作者さん登場から事の顛末を追っていた身としては素直に感謝するべきなのかどうなのか、なんだか複雑な気持ちになったり。

お話としては3人の主人公と「YTIシステム(「夢を」「確かめずには」「いられない」)」が織りなす群像劇。おバカな高校生とシニカルな大学生、諦念を抱く社会人。それぞれ性格の異なる男たちの視点からお話が展開されますが、中盤までは良くも悪くも癖の強さが随所で出てしまっています。作中会話は悪い意味で同人臭さが目立ちますし傍から見て必要以上にパロディを多用するテキストにもウンザリしてしまったのもまた事実。あまり物語が進展していかない構成に退屈さすら覚えていましたが、しかしある地点でそれが一気に引っくり返されるのです。

今思えば独特すぎて感情移入しにくい登場人物たちも計算の上だったのでしょうか。各々の物語がどう着地するのか、というよりも、むしろこの作品の作者が用意した真相は何なのかということだけに焦点を向けている自分がいました。散りばめられ匂わされたヒントにまんまと飛びつき推理した気になり、それがミスリードだと気づかないままに満足する。そしてその実幾重にも合わさった構成と作中で散りばめられた伏線の回収劇がこちらの想像を遥かに超える精度で次々に提示されていく光景はまさしく「作者の掌の上で転がされる」と言う他ありません。作中においていったい何度「え!!!???」という声を零したことか。

随所で見せるアクの強さは決して一般向きとは言えませんし中盤までは正直「これ面白くなるのだろうか…?」と疑いの目を向け続けてしまいましたが、終わってみれば心に刻まれる作品となりました。それはきっと僕だけではなく多くのノベルゲーを嗜んできた人であれば同様に刺さるものになったのではとも思います。唸らされるこの感情を抱きたいがために僕は同人ゲームを嗜んでいますが、こういう出会いがあるとやっぱり止められませんよね。

 

本作は当時希望者のみに再販され現在では入手できませんが、この記事を読まれてもし本作に興味をお持ちの方がいましたら、作者さんのアカウントをフォローしておくと良いかもしれません。

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ちなみに御多分に洩れず菜乃派です。

 

 

CODA

summertimeinblue.net

サークル「Summertime」作品。フリーゲーム。閉塞感に満ちた近未来のディストピア感溢れる世界で少女たちが苦悩し葛藤する姿を巧みに描写していくSF百合ノベルゲーム。ちなみに「作者」の弁によれば百合ではない、といいますかそもそも「百合って何?」みたいな感じらしいです。同サークルによる「真昼の暗黒」や「MINDCIRCUS」とはジャンルは異なりますが独特の気持ち悪さ(褒め言葉)が作品全体を覆っているのは相変わらずですね。僕らが当たり前と思っているものが彼女たちには当たり前ではない。僕らが不思議に思うものが彼女たちには不思議でもなんともない。彼女たちも感じているであろう息苦しさが一体何に起因するものなのか、気づいていながらもそこから抜け出せないもどかしさは当事者ではない僕たちをも巻き込んでいきます。

惜しむらくはこのゲームを単なる「読むだけのモノ」として消化してしまったことでしょうか。本作は公開当時、作中で提示されるパスワードをWebサイトに入力することでお話の続きが解放されていき、ユーザーがお話への没入感を高められる構成になっていたのですが現在では作者さんがサーバーの維持を行っていないために最初からゲーム本編をまとめたファイルが配布されてしまっているのです。この物語を手探りに、よりインタラクティブに開拓していく興奮を享受できる機会を逸してしまったのかと思うとつくづく残念でなりません。まぁそもそも本作はフリーゲームであり、無料でやっておいて文句なんてとてもとても言えた義理じゃないのは重々承知ではありますけれども。ぐぬう。…只より高いものはないってこういうこと…?(違います)

ちなみに後追いも後追いではありますが、「彼女」の思慕の念を理解していくと、このゲームの構成がどうしてこのような形式だったのかという一端を覗けます。…まぁ僕は十全に味わうことはできなかったわけですが(しつこい)。

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平等に追い詰められた世界においてのおそらくは精一杯のハッピーエンドは、ひどく優しい顔をしていると思うのですよ。

 

 

ヴィザルの日記

amagasahigasa.sakura.ne.jp

サークル「雨傘日傘事務所」作品。港街セントサウスを舞台とした群像劇。預言者によって創られた記憶を知る事が出来る木偶人形「コルク」と、自らを買い上げ自由を手に入れた元娼婦「ヴィザル」、そして街の娼館主「サブナック」、その娼館主の秘書「フラウロス」、街の衛兵にいつも捕まっている呑気な街娼「メイコ」、街娼の用心棒「クリノラス」など。個性豊かな登場人物によって紡がれる日常はいつも明るく穏やかで、まるで永遠に続いていくように思えます。しかし娼館主が攫ってきた娼婦の息子「リアン」がこの街に辿り着いた時、物語は急激に形を変えていきます。

"虐げるから悪 虐げられるから哀れ 世界はそんなふうに単純な色分けで彩られていない”

本作ブックレットの記載通り、凡そ救いのない世界観で綴られる物語はあまりに美しく、あまりに汚らしい。

悲劇を悲劇として描かず、冒頭の日常にこそ注力しテーマ性を浮き彫りにする本作は「あえて言葉にしない」という構成故に異彩を放ちます。ひとつひとつに着目すれば悲劇性を有した物語であることは明白なのに、少なくとも言葉の上では彼らの抱く感情が語られることはほとんどありません。あたかも第三者から観て明確な無慈悲さの前に陳腐な言葉を重ねることなど不要と述べるかのように。

殺すこと。 騙す事。 陥れる事。 奪うこと。 近づくこと。 選ぶこと。 ぜんぶ、善悪とは何の関係もない。 善いことはわからない。 悪いことはわかる。 悪いことは弱いことだ。 それは醜くて、汚らしい。 周りの何も守れぬ、怠惰で無価値なことだ。

でも、周りのものを手放さず、 全部守って強く生きている人たちを、 ひとは悪徒だという。 そして逆に、 周りになにかの対価を払ってのみ生き永らえる弱い人たちを善良という。 いろんなことを知ったけど、 でも、それらは全部、 たった一つのことで出来ていた。

規律だ。 僕は知ったよ。 みんなにもおしえてあげる。

皆救いのない物語を受け入れています。一様に晒されています。それはいっそ悪趣味なほどに、格子台に繋がれているメイコのように、当たり前の日常として感情のないままに淡々と描写され続けているのです。

奪われ、嬲られた街は、奪い、嬲った側だった。

だからこそなんでもないような日常を殊更平和的に描写する。そして夢想する。そう仕向けてくるのです。あの歌が、あの場面で流れたその時に思わず胸が暖かくなったのは、おそらく僕だけではないはずです。

この街の記憶に触れたその時、きっとこの街を、人々を、好きになることでしょう。

 

コルク先生にまた会いたいなぁ。

 

 

 

 

全くそんなつもりはなかったのですが、気づけば年間ベスト級の作品に立て続けに触れる月となりました。いやはや感情が揺れ動く揺れ動く。まだまだ僕の知らない名作は息を潜めてこちらを窺っているようです。