Nothing is difficult to those who have the will.

エロゲとオルタナ。そんな感じ。ちょこちょこと書き綴っていこうと思います。

最大瞬間風速の凄まじさ。遅ればせながら、きゃべつそふと「アメイジング・グレイス」の感想を書いてみる。

カナリヤです。本日はきゃべつそふとから2018年に発売された「アメイジング・グレイス」の感想記事です。Twitterでは幾度となくその名前を見かけるもなんとなーく避けていた本作。フォロワーさんに薦められたこともあってやってみたら、いやぁのめり込んじゃいました。画面の前で「ああ!?」と声を上げたのは久々の体験でした。膝も叩きすぎて痛い。ただ素晴らしいと思う反面、少々粗も目立ったと言いますか。多少語りたくなったためこうして筆を執った次第。

それでは始めていきます。

 

※本記事は「アメイジング・グレイス」のネタバレを含みます。致命的なネタバレは避けてはいますが、未プレイの方はあらかじめご了承くださいませ。

良かった点

伏線回収という怒涛のカタルシス

おそらく本作をプレイした人ならば誰もがまずこの点を最初に挙げるのではないでしょうか。序盤から丁寧に張り巡らされた伏線をポイントポイントでしっかりと回収し定期的なカタルシス供給に結び付けていました。

ユネとのはじめて出会いで彼女のセリフが棒読みだったのはなぜか。

部屋の鳩時計が時間を読み上げてくれるのはなぜか。

コトハがことある度に「女優キリエの大ファン」であることを公言していたのはなぜか。

シュウが来る前までのサクヤは食事の時間になるといつもいなくなっていたのはのはなぜか。

数えればキリがない伏線の数々。ひとつひとつは首をかしげる程度の些末な違和感でしかない日常描写であっても、それらが思いも寄らない真実に結実していく流れはそれに気づけなかった自分を恥じるような。「やられた!」と敗北感に打ち震えるような。アゴに一発いいのを喰らったが如き衝撃にまで昇華させたことは実に見事と言わざるを得ません。

なかにはミスリードと呼べるようなものや張るだけ張って出番のなかったものもあったと思います。しかしそれらを含め「なにがどう転んで帰結していくかわからない」という未知への興奮へと繋がっていったわけですから、振り回されたことをさながら犬のように喜んでしまいましたね。Here Comes Your Man!(まったく関係なし)

 

「フーダニット」という明朗な目的

次にお話の目的を「犯人探し」に絞り込んだことが非常に良かったと思いました。森に成った赤リンゴと青リンゴを食べたことでタイムリープできるようになった主人公シュウとヒロインであるユネ。クリスマスの夜に突如「町」を燃やし尽くした「アポカリプス」の真相を探るべく彼らはタイムリープを繰り返します。

シュウ視点3周目では「アポカリプス」を阻止しようと使用される爆弾をすべて回収しますが、それらすべてがダミーであることが発覚し失敗。4周目では前周回で見つけたダミー爆弾もなくなっており、かつ爆弾の隠し場所も変わっていたことでまたしても失敗。繰り返しのなか対策を講じようとするシュウでしたが、そんな彼を嘲笑うかのように「アポカリプス」は確実に実行されてしまいます。

しかしシュウたちはこの偽の爆弾とはそもそも「爆弾を探す存在=シュウ」を認知していなければ必要ないはずという事実から自分たち以外にもタイムリープを行っている存在がいることを知覚し、またシュウの動きをいち早く察知していたことから自分たちに身近な人間が最も疑わしいと判断し、「アポカリプスの阻止」から転じて「アポカリプスの犯人は誰なのか」を探っていくことになります。

このように分かりやすい命題を早期に設定したことで、登場人物たちの発言や行動を見逃すまいという心理をより一層働かせたのは、ユーザーにとって興味の継続に繋がったのではないかと思いました。これが仮に「アポカリプスはなぜ起こったのか」「アポカリプスの目的」といった、情報が最後まで集まらない限り知り得ないような問題のみにフォーカスしていたのであれば寝る間を惜しんでプレイするようなことにはなってなかったかもしれません。

それまで暮らしてきた愛すべき町が焼失していく。愛すべき隣人たちが目の前の絶望に悲鳴をあげる。そしてそれを引き起こした人間は同じく隣で笑う愛すべき隣人なのかもしれない。

「アポカリプス」という悲劇は悲劇過ぎるがゆえに荒唐無稽なファンタジーに映るかもしれませんが、「隣人が犯人という疑念」を提示することでユーザーにとっても実に身近に感じられる、想像の範疇の恐怖・怒り・戸惑いという感情を想起させるものになったのだと思います。このお話の目的を良い意味で矮小化させ興味を煽る構成だったことも非常に楽しめた要因だったのではないでしょうか。

 

悪かった点

プレイを妨げたもの

シスター・リリィというキャラクターがいます。彼女は「町」にある聖アレイア学院の教師で、生真面目な性格でありながら下ネタに敏感に反応しちゃったりするなかなか可愛らしい大人の女性です。が、端的に言ってしまうとこのキャラクターの声優さんが、ちょっと、あの、特徴的と言いますか。端的に言いますと下手クソです(直球)。

教師という役割からか長文セリフや説明セリフが非常に多いのですがその演技が本当に大根なんです。もうびっくりするくらい。他のキャラクターの声は普通に聞けてしまうだけにその違和感が本当にいい仕事してます(皮肉)。聞いてるうちに慣れるかな?と最初は我慢していたものの中盤あたりで限界に達してボイスを切ってしまいました。伏線の張り方とその回収の妙が本作のウリなわけですが、そうなると場面ごとの一言一句を聞き逃せない、見逃せないわけです。そこでズコーって効果音が聞こえそうな大根演技で重要そうなセリフや思わせぶりなセリフを聞く羽目になるそのガッカリ感たるや…。

個人的には声優さんにこだわりってほとんどないんですよね。まぁこの人好きだなぁってのは多少ありますが、それでも基本的には「誰でもいい」というスタンスでここまでいられたのは声優さんが誰であろうと違和感のない演技に常に仕上げてくれていたからこそなんだなぁと改めて思いました。ちなみに件の声優さんはこのキャラクター以外の情報がなく配役に関してなにやらキナ臭いものを感じなくもないですが、まぁあまり考えないようにします。いやー声優さんってすげえや(小並感)。

 

機械仕掛けの神」の妥当性

ここからは何の宗教的知識のない人間の戯言だと暖かい目で聞き流していただければ幸いです。

 

おそらくというか僕がそうだっただけで他の人がどう感じるかまではあくまで想像でしかないのですが、この作品の評価が分かれるポイントは「黄金の林檎」によるハッピーエンドの是非だと思います。分岐点となるのは果たして「黄金の林檎」の存在は唐突過ぎるものだったのかどうかです。

・細部で用いられ、植え付けられた宗教観

・赤いリンゴ(生命)と青いリンゴ(知恵)

キリエの映画「リンカマン」でのリンカの役割

赤いリンゴと青いリンゴによるタイムリープというファンタジーから端を発した物語が「黄金の林檎」というファンタジーによって決着するというのは必然性があるものだとは思います。上記に並べたようにその必然性を高める努力を作中でも示していることからもそれは明らかです。しかしこのお話がファンタジーという荒唐無稽から始まったものだとしても、シュウたちの示した足掻きは躓きはあったものの限られたリソースからの現実的なアプローチだったと思えました。だからこそ終盤に提示される代償は不条理ではあっても不合理ではないと思えたのです。けれども最後は文字通りの奇跡に頼るほかなかったのだ、というのはなんとも尻すぼみのような印象を受けてしまいました。

「黄金の林檎」という禁断の果実。神の食べ物とされ、不死の源とされるそれは作中でも何度か言及される「デウス・エクス・マキナ」です。キリエの言う「リンカの全能感」が映画をハッピーエンドに向かわせたように、「黄金の林檎」は絶望的な状況を、不可能を可能にしました。それはきっと彼と彼女と、彼女の苦悩を思えば誰もが望む理想の結果だとは思います。これ以上ない、否定しようのない程の。

伏線回収によってもたらされた理知的なカタルシスは素晴らしいものでした。であればこそ同様にあの不条理な展開においてもスカッとするロジックによって打破してほしかった、味を占めてあのカタルシスをもう一度と願ってしまったのはユーザーのエゴというものでしょうか。結局のところは単なる感情論でしかないのです。僕は最後にまた「ちくしょう!面白いじゃないか!!」と画面の前でニヤつきたかっただけなのかもしれません。

 

まとめ

最後にグダグダ言うてますが、タイトル通りの最大瞬間風速に圧倒された非常に楽しめる作品でありました。少なくともプレイしたことを後悔しない程度には。特にあの「自分の常識」にしてやられたあの瞬間は、かつてない気持ち良さがありましたね。ただベタ褒めで終わらせずに不満点を述べずにはいられないというのは、それだけ語りたいという欲求が刺激される作品だったのだと思います。良かった点にしろ悪かった点にしろ、それを語りたい、言葉に残したいという思いを抱くということはその作品に対して最大級の賛辞にも匹敵すると思うのですがどうでしょう。単純に「おもしろかったー」で済ますわけにはいかなかった。そういう使命感にも似た衝動をこの作品は抱かせてくるのです。先月発売されましたメーカーの新作も好評なようで、近々こちらもプレイしてみたいと思います。

 

この作品の魅力を存分に味わってしまった僕は、もうこの作品を十全に楽しむことはできないのだという事実を嘆きつつ、どっかそのへんに都合よくミューズでも落ちてないものかと日々願うばかりです。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにリラの正体は他の方の感想を読んではじめて分かりました…くそぅ…