カナリヤです。本日は去る10月15日、東京都は港区お台場にあるライブハウス「Zepp DiverCity東京」にて開催された「KINOSHITA NIGHT2023~SHIGONOSEKAI~」のライブレポです。
お台場見学と、syrup16gとPOLYSICSを観に来ました https://t.co/UOkD94M8ln pic.twitter.com/F82dqyqgqI
— カナリヤ (@mywaymylove00) 2023年10月15日
ART-SCHOOLのフロントマン木下理樹の生誕を祝うべく不定期に行われるこのイベント。前回はオールナイトというとんでもない無茶で終盤には誰もが疲労困憊だったのを反省してか、今回は至極真っ当なスケジュール。とはいえ東北の田舎民としては日曜夜は勘弁、と思いつつも翌日の仕事のことはひとまず脇に追いやって45歳のオッサンの誕生日を祝いにはるばる赴くのでした。
POLYSICS
トップバッターは予想通りハヤシ(あえて敬称略)がうるさいでお馴染みのPOLYSICS。対バン相手として彼らが発表された時は嬉しさよりも浮いてやしないか…?という感想を真っ先に抱いたものだが、そうした気持ちを僕らが抱くのは折り込み済だったようで、登場からやたらハイテンションでTHE BEATLESのBirthday、ポリらしいポップなエレクトロのLet'sダバダバを続けざまに披露しながら「死後の世界という割には明るくやらせてもらってます!」「POLYSICSの辞書に死後の世界って載ってないから」と穏やかな笑いを取りながら会場を沸かせていく。ちなみにハヤシに言われるまでSHIGO=45の掛詞になっていることに全く気がつかなかった。木下理樹らしいわ、で終わってた。だって前回の副題「BAN NEN(晩年)」だったじゃん。そら次は死後の世界かなって、自然に。
合間のMCではメンバー全員が木下理樹との思い出を語り出した。
ハヤシは対バンした際に当時よく演奏していた「車輪の下」を聴いて絶対Jon Division好きだと思ったこと。ライブ後の飲み会でJon Divisionの話ができるとワクワクしながら木下理樹に話しかけたものの「あぁ…好きだねえ…」と呟いたっきり話が終わってしまい、思わず「なんだこいつ!?」と思ったこと。けれどしばらく後の仙台のライブではたまたま木下理樹との歯車が合ったのか肩を組むくらい話が盛り上がり最後には部屋呑みまでしたこと。
ヤノが所属するフットサルチームの監督が木下理樹らしく、特に指示をしてくれるわけでもないがマスコットとして機能しているんだとか。
フミはライブ後の帰宅途中財布をなくしてしまった木下理樹とのエピソード。この後帰れるのか心配しながらバッグを漁ると中から大量の小銭が出てきて数えたら6000円くらいあったので「なんか…大丈夫そうだね」と呆れたこと。
トップバッターに相応しく優しく穏やかに今回の生誕祭への祝福の意を示す彼らだったが、POLYSICSらしいふざけてるんだけどなぜかカッコいい、そんなえげつない演奏は非常に聴き応えがあった。POLYSICSのライブは今回が初めての、生で聴く機会だったわけだけど、彼らのいっそ主役を喰ってしまうかのように、あっという間に会場を自分たちのフィールドにしてしまう凄みは彼らの26年というキャリアが決して平坦ではなかったことを窺わせる。会場を温かな空気に包みながら、それでも自分たちの爪痕をしっかりと残しつつ、次の問題児へとバトンを渡すのだった。
セトリ
- Birthday (The Beatles Cover)
- Let's ダバダバ
- Young OH! OH!
- Funny Attitude
- Stop Boom
- MAD MAC
- シーラカンス イズ アンドロイド
- SUN ELECTRIC
- URGE ON!!
- カジャカジャグー
syrup16g
自分でも意外だとは思うが、彼らもまた生で聴く機会はこれが初めてだった。なんとなく彼らの"毒素"はなまじ現実感がありすぎて、紙一重で反転してしまったように忌避すべき存在になっていたのかもしれない。訓練されたシロップ信者をして、彼らのライブが一筋縄ではいかないことは噂程度で耳にはしていた。とは言え他人様のイベント、それも生誕祭でそんな好き勝手に暴れ回るわけがない。それでも何かをやってくれるんじゃないか、ぶち壊してくれるんじゃないか、という期待を持って彼らの初ライブを観ていたわけだが、いきなり開幕から新曲を立て続けに披露するとは思わなんだ。スリーピース特有のシンプルな音圧ながら重厚さを失わない楽曲はまさしくsyrup16gのそれなわけだが、突如披露された完全新曲にはさすがに困惑したか、会場中に動揺が拡がっていくなかで「今日は全部新曲やります」という五十嵐の宣言に歓声とも悲鳴とも取れる声が上がると「嘘!あと2曲!」と茶目っ気たっぷりに付け加えて観客を安堵とも戸惑いとも思わせる感情を抱かせる。初めて観てのこの既視感は何なのだろうか。
とあるZINEで掲載されていたTHE NOVEMBERS小林氏のインタビューにおいて、小林氏はART-SCHOOLの作る曲は聴く人にART-SCHOOLらしさを感じさせる、と語っていたが、それは似た雰囲気を感じさせるsyrup16gも同様だろう。リヴァーヴの効かせたギターが響き渡った瞬間に「あ、これsyrup16gだ」と一気にその雰囲気に引きずり込まれる。初めて聴く曲にも関わらず最後には五十嵐の吐き捨てるような歌声と自然体過ぎる歌詞に魅了されている自分がいた。もしかしたらこのすぐに馴染む感覚こそが忌避感の正体なのかもしれない。そして計4曲の新曲の後には「神のカルマ」「生活」「天才」と人気ナンバーが続けざまに演奏される。そういえばPOLYSICSの醸成してくれたあの穏やかな空気はどこへ行ったのだろう?戸惑いとスリリングさで会場を荒らしまくった彼らはイメージ通りまともなMCなどしないままラストの「落堕」で五十嵐が木下理樹へのお祝いの言葉「らしき」ものを叫んでステージを後にした。
セトリ
- 新曲
- 新曲
- 新曲
- 新曲
- 神のカルマ
- 生活
- 天才
- 落堕
ART-SCHOOL
もはやお馴染みのAphex TwinのGirl / Boy Songの出囃子に乗って本日の主役であるART-SCHOOLがいよいよ登場。雰囲気は終始和やかなものだったように思う。MCのたびに木下理樹は相変わらず要領を得ない喋りを披露して、それをメンバーと観客が暖かく見守りつつ耐えかねた戸高が助け舟を出すいつもの構図。その日は親交のあるストレイテナーの武道館ライブと重ねってしまったことで「被ってしまい申し訳ない」となぜか戸高が謝り会場に笑いが漏れる。前述のsyrup16gの新曲は先んじてセトリを知った木下理樹も驚いたらしく、それでも「五十嵐さんからはプレゼントだって言ってくれた」と嬉しそうに語っていた。
朗らかな雰囲気溢れる会場でその空気を楽しみつつ、けれどその「いつものART-SCHOOL」感は目の前の凄まじい演奏とあまりにも違いすぎてそのギャップに頭がクラクラする感覚を抱いたのだ。こんなバンドだったか、ART-SCHOOLって?
初っ端の「Moonrise Kingdom」から既に異彩を放っていた。新譜「luminous」を初めて聴いた時、1曲目のそのホワイトノイズの鮮やかな音圧に魅了されたものだが、この日のそれは繊細さよりもまず圧倒的な音圧が際立っていた。悲鳴のように響き渡るノイズがいつまでも止まない。どこを切り取っても、どこからでもその轟音が迫りくるように襲ってくるのだ。
3年間の活動休止期間から復活した彼らと以前までとの大きな違いはニトロデイのやぎひろみが加わったことでギター3人体制になったことだろう。普段のメロディー取りから解放されたこの日の戸高のギターはあまりにも凶暴だった。ある種の制限が取っ払ったかのように観ている分には好き勝手に暴れまわっていた。もはや散々聴いてきた馴染みのイントロを聴いてもそれが何の曲か判断できないくらいに。その戸高を抑えるように、いやむしろもっと暴れろとでも言うように中尾・藤田両名のリズム隊も存在感を増していく。その中で木下理樹の歌声は不思議なくらいにクリアさを保っていた。彼の普段は弱々しく映る歌声がこの轟音の中で明確な居場所を構築していた。暴力性と純粋性がこの場には等しく存在している。無秩序に構築された秩序はいっそPOLYSICSが可愛く思えるくらいだったのだ。
憎いのはその轟音からの切替すらも魅力にシフトさせていることだ。「クロエ」では木下理樹がギターから手を離しトディとやぎのカッティングの絡みがより美しく映える。時にはトディも手を止め、やぎのギターだけのアルペジオが気怠けな歌声と混じり合う。音を減らす、その単純な手法でこんなにもあっさりとこの場に酔いしれてしまった。
その後も軒並み原曲を遥かに上回るクオリティで演奏は続いていき、特に最新作からの「Bug」は衝撃だった。もはや音の暴動だった。イントロのフィードバックノイズからの期待感は先の「Moonrise Kingdom」によって上がったハードルを爆発のような音圧によって軽々と超えてしまった。間違いなく、これまで観てきた中でこの日がART-SCHOOLのベストアクトだったと断言できる。興奮しすぎて回らない頭を振り回しながら来てよかったと子供のように素直な感情を抱いた。
5年前のKINOSHITA NIGHT、ゲストで登場した髭・須藤は後輩でありながら木下理樹に対して愛ある悪態をつきながらも彼の作る楽曲への信頼感を口に出し、そしてその楽曲に魅了された僕らオーディエンスに対して「キミ達の感性は絶対に間違ってない」と力強く断言していた。
あれから5年経って、僕はART-SCHOOLの、木下理樹の作る曲にNOを突きつける未来を未だに想像できていない。どこまで行っても不完全な、おおよそ完全無欠なヒーローではないからこそ、僕は不躾にも身近な存在のような共感を抱かずにはいられないのだろう。けれどそれだけでART-SCHOOLを聴き続けているわけでは決してない。あくまでもそれは愛されるに足るキャラクター性を有しているということに過ぎないからだ。日々生まれる音楽に対して興味を持続するためには、目を逸らさないためにはそれ相応の何かが必要だ。僕が、僕らが彼らの音楽を過去にできなかったのは、それだけ彼らが現状に満足せず、彼らの音楽を追求しているが故だ。だからこそ日々感性をアップデートする僕らを再び彼らという沼に引きずり込んでしまう。彼らは今が最盛期だ。僕は僕の感性を信じて良かったと、噛みしめるようにアンコールの「ニーナの為に」を聴いていた。
木下理樹、45歳おめでとう。次のKINOSHITA NIGHTでも、そのたどたどしいMCで僕らを安心させてくれ。そしてそれが吹っ飛ぶくらいの圧倒的な音楽を聴かせてくれ。
セトリ
- Moonrise Kingdom
- アイリス
- EVIL
- foolish
- クロエ
- プール
- サッドマシーン
- Just Kids
- ロリータ キルズミー
- FADE TO BLACK
- Bug
- スカーレット(EN1)
- ニーナの為に(EN2)