Nothing is difficult to those who have the will.

エロゲとオルタナ。そんな感じ。ちょこちょこと書き綴っていこうと思います。

最近あなたの暮らしはどう その6

カナリヤです。日常報告シリーズ第6弾。前回はこちら。

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最近、僕にしてはやたら脂っこいもの(意味深)を口にしております。楽しいんだけど、重たい。でもやめられない。楽しい。

 

 

小説

死体泥棒

死体泥棒 (星海社FICTIONS)

死体泥棒 (星海社FICTIONS)

  • 作者:唐辺 葉介
  • 発売日: 2011/12/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

「MUSICUS!」以来この人の文章が読みたくて仕方ないので長らく積んでた唐辺葉介を崩してみんとす。

ひとりの男が愛した女性の死をゆっくりと受け入れていく優しい物語。男の一人称で描かれる猶予時間は惰性と諦念と滑稽さに充ちていて、彼が理不尽さに対して足掻きにもならない足掻きをしたところで確実に時間が経過して否応なく事象が変化していく様を男の視点で覗いていくとなんだか見てはいけないものを見ているかのような。踏み入ってはいけない時間を汚しているような。自分が下世話なことをしている感覚にどうにかなってしまいそう。先輩に子供じみた抵抗を試みるところとかさ。抑揚なく過ぎていく時間は人によっては退屈に写るのかもしれないけれど、それらはすべて最後のシーンへと繋がっていくために男が必要としたものだったことを実感できます。誰かが再び前を向くために必要とするものなんて人それぞれ違うに決まってますし、それを自分の常識に照らし合わせて勝手に異常だと捉えるのもずいぶん勝手な話ですよね。

 

つめたいオゾン

つめたいオゾン (富士見L文庫)

つめたいオゾン (富士見L文庫)

 

再び唐辺葉介作品。もしかしたらこの人の作品で三人称モノを読んだのは初めてかもしれません。いつも誰かの視点で誰かの歪つで興味深い観点で作品世界を楽しんでいた側からしたら三人称視点は珍しく新鮮ではあるもののお話の展開も相まってどこか実験動物の経過報告を読んでるような気分になってきます。だいぶ趣味が悪い。まぁ前回読んだ「死体泥棒」含めて救いはあっても気分の良い作風とは言えない筆者の本を好き好んで読んでる時点でモヤモヤしたものを抱える羽目になるのは分かっていたことだろうが、なんですが。案の定目を背けたくなるような展開が前触れなくサラっと描写されて思わず天を仰ぎ見たんですが、結局はいそいそと本に向き合ったあげく「瀬戸口始まったな」って背けていたはずの目を爛々と輝かせてるから、まぁ僕も大概よね。

ここで描かれる男女の関係性が筆者の思う理想形のひとつなのかしらとふと。確かに二人の心が混ざり合い溶け合っていき閉じていく世界は究極のものだと言えますが、これまで構成していた自分という認識が変質・喪失していきべつの新しい意識となっていくことへの恐怖を二人は最後まで不安視していましたし、一人称ではない描写で淡々と描かれる彼らはどこか空虚で痛々しい。読み返して気づいたんですが四と六の間の録画ファイルの存在が非常に気になります。最終的な僕の感想は「これホラーやん」です。

時系列的にはこれの後に「MUSICUS!」が発売されたようで。もし「MUSICUS!」やる前にこれを読んでいたら作中の彼女に似た花井三日月に対して何らかの感慨を抱いていたのかな。なんだか惜しいことをしたような。真っさらな状態でうんこ製造機を眺める幸せは、もしかしたら貴重なものだったのかもしれないと不思議な気持ちになる。

 

次は「PSYCHE」を読む予定です。はてさて。

 

映画

 パラサイト


第72回カンヌ国際映画祭で最高賞!『パラサイト 半地下の家族』予告編

いつか観よういつか観ようと思っていたのにもかかわらず先日の地上波放送を見逃して結局はレンタルで観てしまいました。

韓国で長らく社会問題と化している貧富の差をテーマに落とし込みその断絶を必要以上に言葉を用いることなく流れるようなシーンの連続でのみ印象づけていく手法にはただただ圧倒されあっという間に引き込まれてしまいました。暗く陽の当たらない下層の貧民街と常に太陽光降り注ぐ上層に住む富裕層の住む街。災害級の大雨の影響にいまなお晒され続ける持たざるもの達と昨日の大雨が嘘のように晴々とした天気を謳歌する金持ち達。要所要所で隠喩をぶつけてくる展開の底意地の悪さはそれだけ問題の根深さを物語っているようで、最後の最後までやりきれない思いを抱かずにはいられません。

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…このフライヤー怖すぎません?


エロゲ

MUSICUS!


OVERDRIVE 最終作「MUSICUS!」CM映像

ゲームという媒体でこの人のテキストを味わうのはホントに久しぶりで、この人独特の軽やかな気持ち悪さに当時と変わらない感覚で夢中になってしまいました。果たして変わらない魅力があるとするべきか、僕が当時から変わってないのか。

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記事ではゴチャゴチャ言ってますし、「ゲーム」としてみた場合には多少なりとも不満はあるんですが、それでも面白かったという感覚が優ったからこそこうして年間(にやった)ベストに選出したんだと思います。しかしこれで瀬戸口熱が再燃してしまったな。これは未プレイのCARNIVALも検討せざるを得まいて…。

 

白昼夢の青写真


【白昼夢の青写真】ティザームービー『いつかの白昼夢』

Laplacian作品。感想とか読むと高評価つけてる人がかなーりいらしたのでやってみたんですが、評判通りめっさ面白かったです。

記憶を失った青年が3つの異なる時代設定の世界を通じて自らの記憶と傍らにいる少女との関係性を徐々に解き明かしていくお話。一見なにも関連性のない独立した物語たちがひとつの結末に向けて収束していく感覚は古き良き名作エロゲを思わせる歯応えある作品に仕上がっています。いくらでも長くできそうなお話の規模を30時間程度に収めたのは昨今のエロゲ事情を鑑みてのことなのでしょうか。これが2000年代に発売されていたらまた違った構成になっていたかもしれませんね。

システム面に関してはなかなか凝った作りをしている印象です。作中では異なる時代が出てきますがそれぞれメッセージフレームや機能ボタンのデザインを変えてきてるのが非常に好感が持てました。こういう丁寧な作品づくりを見せられると贔屓にしたくなりますね。

音楽もOPやED、BGMはどれも気合いが入った作り込みをしていますね。特にOPムービーはどれも洗練されていますし曲自体も大変魅力的です。個人的にはcase-1のOP「クラムボン」は非常に特徴的なリフが耳に残りますし、case-3のOP「恋するキリギリス」は変拍子のドラミングが本当にたまりません。こういうボーカルを食っちゃう曲大好きなんですよね。紋切り型ではない制作者のセンスを感じられる楽曲はそれだけで本編への興味を刺激してくれますし、曲だけでもメーカー買いする価値があるのでは、と思わせてくれるくらいには気に入ってしまいました。


【白昼夢の青写真】CASE-1オープニングテーマ『クラムボン』


【白昼夢の青写真】CASE-3オープニングテーマ『恋するキリギリス』

また声優の神代岬さんの演技がとにかく素晴らしい。性格の異なるヒロインを違和感なく演じ切ったのはまさしく驚嘆モノです。お話の構成上必要不可欠な要素だったのは間違いありませんが、だからこそそれぞれのキャラクター性をきちんと演出することが求められる声優という職人の底力を垣間見た気がします。僕はすももが好きです。

数少ない不満点はやはりラストでしょうか。詳細は省きますが、絶望のなか痛みと希望を伴う決断は喪失の先にある人間に残された善性を感じられるもので、その選択が非常に爽やかな気持ちになるものであったからこそエンディングにおける必要以上の描写は蛇足以外のなにものでもなかったと言わざるを得ません。物語後半は息もつけない展開が続くこともありこうした形で肩の力を抜くような構成にしたのかもしれませんが、率直に言って野暮でしかなくやるならやるでもっと振り切ってくれ、というのが正直な感想です。

ちなみに作中に登場する時代設定の異なる3つの世界はどれも過去作に関係してるものばかりなんだとか。これらも気になりますねー。

 

天ノ少女


天ノ少女 OP MOVIE

Innocent Grey作品。「殻ノ少女」「虚ノ少女」に続くシリーズの完結編。ブランド代表も務める杉菜水姫氏のアーティスティックな原画が魅力の本シリーズ。虫は嫌いですけど紫はかわいいので好きです。真崎のようないい加減な男なぞ僕は認めん、認めんぞ。

少なくともエロゲでは今時珍しい推理ADV。手帳を駆使して人物や証拠を整理しつつ真相に迫っていく推理パートはそこまで難易度も高くなくやや歯応えには欠けるかもしれませんが、個人的には詰まることなく快適にお話を堪能できたという意味で良かったのかなと思います。また本作は周回プレイを前提としていますのでスキップ機能も充実している点は助かりました。まぁ調査パートを何度も通る羽目になるのは少々面倒ではありますがシステム上仕方ないですね。また個人的に個別音声設定でキャラクター毎のボリュームの上げ下げが簡単にできるのは嬉しかったです。魚住声デカいねん。勇作声小さいねん。

期待しすぎた点として猟奇性の不足が挙げられるかと思います。本作は「偏執(パラノイア)」に囚われた登場人物たちによる猟奇的な事件。そしてそれに伴う様々なグロテスク表現が魅力ではありますが、前作までと比較した場合残虐性という部分でややインパクトに欠けてしまっています。完結編として大団円を演出するための配慮なのかもしれませんが、前作までの容赦のなさを期待してしまうと僕のように肩透かしを食らう羽目になるかもしれません。

とはいえシリーズを存分に楽しんでプレイした身からすれば、主人公である時坂玲人が「偏執」から解放された瞬間の、あの思わず笑みのこぼれてしまうラストシーンを観られただけでもプレイした価値があったなと思わせる、非常に満足感を覚える幕引きでありました。

 

 

今回はなかなか重厚なものが続き多少なりとも疲労感も。ただだからこそ満足感も高めです。数ヶ月前の僕はこういう重たそうなものを意図的に避けてきましたが、そうして選んだ軽いものに関してなにも感慨を抱けずに終わることもしばしば。それを求めていたのであれば一概に悪いこととは言えませんが、こうしてお話に重厚さを求めているうちはその欲求に従ってみようかと思います。待ってろ、唐辺葉介…!!!