Nothing is difficult to those who have the will.

エロゲとオルタナ。そんな感じ。ちょこちょこと書き綴っていこうと思います。

Illusion Is Mine 2022.3~4

カナリヤです。日常報告シリーズ音楽編。前回はこちら。

mywaymylove00.hatenablog.com

この時期は暑いのか寒いのかよくわからなくてホント困りもの。一体なに着てくのが最善なのよっていうね。

 

 

書籍

誰が音楽をタダにした?:巨大産業をぶっ潰した男たち

音楽産業の利益構造が塗り替わっていくプロセスが、規格競争を勝ち抜いたファイル圧縮フォーマット"MP3"を開発した優秀な研究者、あらゆる音楽をリークし続けた最強のインターネット海賊、1990年代後半から2000年代のヒップホップの台頭を独占した最高の音楽エグゼクティブ、という三者の視点から紡がれていくノンフィクション。当時の音楽業界を俯瞰しながらも登場人物たちの実情を事細かに描写し、その複雑に絡み合った歴史を紐解いていく。

ブランデンブルクはひたすらに音響データ圧縮技術を追い求めた。

グローバーは田舎のCD工場に勤めるどこにでもいる若者だった。

ダグ・モリスはエグゼクティブ職として音楽業界のビジネス化を推し進めた。

2000年前後から急速に普及・発展したインターネットは彼らの思いと環境と矜持という要素を偶発的に引き合わせて、音楽という文化はその形を変えてしまった。これがほんの10数年前の話だったんだなと思うと物事が過去になっていくことのスピードに驚きを隠せない。本書で描かれるように、発表前に供給することを至上命題に掲げフロントランナーとして海賊行為を行い続けたリーク集団「シーン」は、間違いなく音楽というものの価値を下落させた。でもその行為のハードルを下げてしまったのは他ならぬ音楽業界だったんじゃなかろうか。著作権保護の名の下に業界と権力が手を結び、少数の誰かの懐に巨額の利得を生む。研究者や消費者、音楽業界の世界の個々の歪みのように見えて、その実社会全体で看過してしまっている歪みであることが見て取れる。

僕自身いまやCDという媒体を通してではなくサブスクによって音楽を聴くという形態に染まってしまったとは言え、いまだ違和感は拭えない。音楽への消費手段の大部分が「音源を所有すること」ではなくなってしまったことに戸惑っているのだ。本書においてサブスクに強硬に反対していたと紹介されているRadioheadトム・ヨークは、その後結局は自らの楽曲をサブスクで公開してしまった。本来音楽を聴くために払うべきだった対価を支払わうことなく、それを当たり前だと感じる。それがいいことなのかどうなのか、僕にはまだ判断ができない。

 

 

音源

枯渇/downy

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3ヶ月連続シングルリリース第1弾。ここ2年におけるバンド活動への「渇き」をテーマに製作されたという本作は、いつも以上に攻撃的かつプログレッシブな音像で、いつも以上に複雑で難解。それはまるで異形の怪物を思わせ、金切り声のように劈く音はいつまでもこの耳にこびりつきやがて脳髄をズタズタに切り裂いてくる。これはもはや痛みではない。痛みと認識できる器官は既に失われてしまったのだから。獰猛で優しくはない感性を曝け出したこの曲をわけも分からないままに僕はまた聴き続ける。彼らの渇望に触発されてしまったかのように、自ら刺されに行くのだ。

 

叢雨(むらさめ)/downy

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3ヶ月連続シングルリリース第2弾。不穏なイントロを経て鋭利な刃物のような雨音が僕を容赦なく濡らしてくる。そして隙間に差し込まれる静かな音の浸食は青木ロビンの不確かなボーカルとピアノの単音によってこの曲は一層メロウな感覚を帯びてくる。

驟雨(しゅうう)はやがて止む。けれど道端には雨の足跡が未だ残り、メランコリックな情景は僕を燻らせる。止むことを望んでいたはずなのに、止んでしまった雨の名残が依然僕を苛むのだ。苛んでいたのは雨だったのか?そうしてまたあの雨が降ることを待ち続ける。何かに病んでいられることを祈り続ける。

 

Eye Escapes/Kraus

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Will Krausによるソロプロジェクト「Kraus」の4thアルバム。去年Krausという存在を知って以降、彼のつくるシューゲイザーにすっかり惚れ込んでしまった。瑞々しさを失わない彼のサウンドスケープマイブラ以降に求め続けたシューゲイザーの最適解のように感じてしまう。留まることなく音源を発表し続ける彼の才能という源泉がいつの日か枯れやしないか、そんな一介のファンがしなくてもいい心配をしてしまう。どうかその艶やかなサウンドで、僕をいつまでも包み込んでほしい。

 

Dreams Drenched in Static/Cremation Lily


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イギリスのロンドンを拠点とするZen Zsigoのソロプロジェクト「Cremation Lily」による9thアルバム。アンビエントを軸としながらもブラックメタルシューゲイザー、インダストリアルやノイズなど幅広いジャンルからの影響が見受けられ、これと絞り込むのが非常に難しい作品。

「死の暗示と鬱病」をテーマに書かれたという本作は、例えれば朝目覚めた直後のまどろみに身を委ねたときの心地よさに似ている。起きなければならない。起きたくない。永遠にこの一瞬を感じていたい。そうしているうちにいずれ無遠慮な目覚ましのアラームが僕の永遠を容易く刈り取ってしまう恐怖がやってくる。その恐怖に追われながらの幸福は正しく幸福と言えるのだろうか。あやふやな境界線、その狭間に僕はいるのだ。

30分にも満たない本作は流麗なアンビエントで幕を閉じる。あっけない幕引きの潔さは、その幸福に縋る旅路こそが真に幸福だったのだと訴えるかのように。

 

 

さて今月末には久々のライブだ。ライブハウスに足を運ぶという特別であり当たり前だった非日常が僕を待っている。泣いてしまうかな。そこまであからさまな感傷を抱くかな。なんにせよ存分に堪能してくるとしよう。