Nothing is difficult to those who have the will.

エロゲとオルタナ。そんな感じ。ちょこちょこと書き綴っていこうと思います。

またいい未来で会いましょう。THE NOVEMBERS 配信ライブ 「At The Beginning」の感想を書いてみる。

カナリヤです。今回は12/11に開催されたオルタナティヴ・ロックバンド「THE NOVEMBERS」による配信ライブ「At The Beginning」のライブレポです。場所は栃木県は宇都宮市にある大谷資料館。そこで公開されている「未知なる空間」と呼ばれる地下採掘跡地で撮影された今回のライブはその景観も相まってまさに圧巻の一言。そして個人的にノベンバのライブに対してリベンジを果たすことができたという意味でも非常に感慨深いものとなりました。


THE NOVEMBERS Live 「At The Beginning」digest

 

それでは始めていきます。

 

 

This Is THE NOVEMBERS

ライブはアコギを携えてボーカル小林祐介がひとり歌い上げる「Rainbow」から静かに開幕した。ラッドミュージシャンのセットアップに身を包み血を思わせる赤々とした荒いアイメイクに彩られた彼の歌声は極寒の地下空間にあって場違いに思えるようにひどく朗らかで暖かく感じられた。白く寒々しい吐息は天然のスモークを思わせるように儚くエロティックで、その意図せず成立したであろう絶妙なコラボレーションはそのたった一曲で独特の耽美な世界観を生み出していた。

独奏が終わり、小林祐介はマイクのセット位置のある前方へ悠然と歩いていく。「薔薇と子供」のイントロの不気味な打ち込みが反響音を伴って容易く空間を支配するなか、カメラ目線でこちらを挑発するように気怠げにマイクを握る小林祐介。先程までの包み込むような優しい歌声から一変、それは美しさと暴力性に富んだものへとシフトしていく。Live「At The Beginning」はこうして始まっていった。

 

ルームアコースティックの極致

今回のライブで個人的ベストだったものを挙げるとすれば、それは「楽園」以外には有り得ない。すべての楽曲が甲乙つけがたく魅力に溢れたものだったことは重々承知の上でそれでも迷うことなくこれを選んでしまう。それほどまでに「未知なる空間」と「楽園」の相性は圧倒的だったのだ。

この地下空間には天井付近に一カ所だけ隙間があってそこからは地上の淡い光が注いでいる。あたかもその場で唯一の現実への足掛かりとして小さくも確かに存在する。力強く民族的なステップを刻むドラムとベースのリズム隊とバイオリンの弓を用いたギターの甲高くも歪な音色が支える歌声は、その光と混ざり合い溶け合いながら非現実的な音像を紡いでいく。曲が佳境に入り美しい歌声が次第に悲痛さを伴う絶叫へと変容していくと、反響音とともに歌声は空へと昇り、やがて掻き消えていく。その圧倒的かつ閉鎖的な音圧はまるで何かの儀式を思わせるかのように。

 

バンド感によって完成した「At The Beginning」

心の底から味わい魅了された今回のライブは、誤解を恐れずに言わせてもらえばおよそライブと呼べるものではなかったように思う。真に僕の心を捉えて離さなかったものはライブ感というものに裏打ちされたものではなかったのだ。おそらく撮影当日はテイクなしの一発撮りではあったのだとしても、そこにあったものは作品として様々な手を施して生み出された限りなく人工物に近いものであったように思う。天然の地下空間に響き渡るリバーブは馬鹿馬鹿しいほどに豪奢ではあったけれど果たしてこれが現地でのものだったとしたら、あの天井に吸い込まれるかのようなサウンドの奥行きを十二分に堪能することはできただろうか。「未知なる空間」と呼ばれる天然の巨大建造物にいくつもの照明を当てることで表面化する神秘的な模様を味わい尽くすことができただろうか。縦横無尽に駆け巡るドローンなどの何台もの撮影機材、その稼動音とかすかに聴こえる水流の優しい旋律を余すところなく伝えてくれる映像。これはきっと"バンド感"と呼ばれるものだ。生きた音を届けるのではなく、あくまでも厳正なる選別でもってつくづく人工的に構築されていった音像空間なのだ。すべてが複雑に絡み合い、計算された上で無駄なく映像を配列していったからこそ特殊なライブ体験の構築を完遂するに至ったのだと思う。

その目論見は完璧と言っていいほどに僕ら聴衆に作用しかつてない衝撃をもたらしてくれたのだ。

 

"そうさ 君はいつも ここが はじまりさ"

「Rainbow」で幕を開けた狂演は「Rainbow」によって幕を下ろした。はじまりは弾き語りで、おわりは音源通りに。アルバム「At The Beginning」の楽曲を曲順通りに披露した今回のライブでこの曲だけ二度に渡って演奏されたのは、実際にはアルバムの最初に収録されているこの曲が、当初のアルバムコンセプトでは最後に収録されるはずだったというエピソードを再現したものだったのだろう。

本来であればこのアルバムはAI(人工知能)が人類を超える地点を意味する「シンギュラリティ(技術的特異点)」をモチーフとした「消失点」というタイトルにするはずだったと、小林祐介はインタビューで語っている。

THE NOVEMBERS、激変する世界の様相を捉えた“新しい物語” 『At The Beginning』に描かれた未来への眼差し - Real Sound|リアルサウンド

前作「ANGELS」で見せたインダストリアルな要素を更に推し進めるように製作された「At The Beginning」は当初の予定ではアルバムの最後を"ここがはじまりさ"と歌う「Rainbow」で締めることで、来るべき未来に対するポジティブな思いを託したまま幕を閉じる構成にするつもりだったという。しかし新型コロナウイルスの感染拡大による未曾有の事態にあって、様々な混乱の中で人々は変化と適用を強いられ、社会や人そのものの本来の性質が剥き出しになっていく現状はむしろ"既にはじまっている"ということを意識したのだ。

世相の変質を汲み取るようにアルバムの持つ意味に深みを与えていった「At The Beginning」は今回のライブで再び「Rainbow」というメッセージを改めて強く印象付けていった。コンセプトを変えてもなお伝えたかったこととは何だったのか。見せつけるような吉木諒祐の力強いドラミングとそれに連動するシャウトは"はじまりにしなければならないんだ"という決意めいたものをまざまざと感じさせるものだったように思う。

 

"世界が変わる"

僕は過去にTHE NOVEMBERSのライブを観て、そして一度"こわれて"しまったことがあった。

mywaymylove00.hatenablog.com

今ではとても信じられないことではあるが、彼らの音楽を聴いて揺り動かなかった自分がいたことを端的に伝えてくれる過去の記憶は本当に貴重だ。当時の僕にはこれが疑いようのない真実だったのだろうし、喪失感に苛まれた事実は消えることはない。

おそらく当時の僕は彼らの音楽に意味を見出だす術を持ち合わせていなかったのだろう。けれどその足りない頭で可能性だけは感じ取っていたのだ。それは"これを自らの嗜好に絡ませることができれば自分の音楽世界はもっと拡がりを見せるはずだ"という漠然とした感覚と言ってもいい。ライブが終わった後に当時の僕が抱いた喪失感はその道筋が目の前で途絶えてしまったことを惜しむ感傷によるものだったのかもしれない。

しかし状況は一変した。文字通り世界が変わったのだ、大袈裟な物言いなどではなく。かつて失われてしまったはずのTHE NOVEMBERSという"感性"が産声をあげ、THE NOVEMBERSのある"生活"がはじまった。「At The Beginning」を起点にして放射状に、枝葉のように伸びていく音楽的嗜好の拡がりはかつてない快感を僕に与えてくれたのだ。SFを思わせるインダストリアルな音像がこんなにも愛おしい。それは決して現実感に乏しいものなどではなくやがて来る未来の足音を聞かせてくれる、道標になってくれるはずだ。

 

配信日当日、僕は事前に用意していたアルコールを摂取しながら食い入るようにモニターを覗き込み、気付けば踊り狂っていた。あの時得られなかったものを貪るかのように。その様は傍から観ればきっと滑稽だったことだろう。でもそうせずにはいられなかったのだ。失われたものを取り戻すためには、この夜を楽しみ尽くすにはそうするしか。配信終了後、息をすることも忘れていたのか興奮そのままに荒い呼吸が続く。しかしそこから数分経たずに余韻という名の熱は僕の中からあっという間に消え去り、取って代わるようにやってきた寒さにすぐさま身を奮わせた。暖房は切れていた。そういえばもう12月だったな、と今更ながらに思い至った。

 

 

「At The Beginning」セットリスト

※12/12のアーカイブ配信においてバンドメンバーが参加したチャットでほっこりする発言ややりとりを備忘録代わりに覚えてる範囲でちょこちょこまとめておきます。うろ覚えだけども。

 

放送前に23時きっかりにアーカイブ放送をするべく待機していたものの動画の最初に39分の余白があることに気付かず、メンバーや参加者がワチャワチャする。

 ※ケンゴ:(上記を受けて)落ち着け

 ※小林:(落ち着いた後)合わせた上で23時5分開始ね!

01.Rainbow

 ※小林:当日の気温5度くらいでずっと「寒い寒い」言ってた

02.薔薇と子供

 ※小林:マイクが冷たすぎてガリガリ君触ってんのかと思った

03.理解者

04.Dead Heaven

05.消失点

06.楽園

07.New York

 ※小林:あーあーあーああー

08.Hamletmachine

 ※小林:(マイクからギターに持ち替えたとき)冷たいなって思ってる

 ※小林:(寒すぎて)もう指の感覚がほぼない

09.開け放たれた窓

 ※参加者から🍆コメ連発

 ※小林:🍆やめろ!

 ※🍆コメが飛び交う

 ・

 ・

 ・

 ※小林:🍆

10.Rainbow

 ※小林:またいい未来で会いましょう

 

 

円盤化、お待ちしています。