Nothing is difficult to those who have the will.

エロゲとオルタナ。そんな感じ。ちょこちょこと書き綴っていこうと思います。

Illusion Is Mine

何気なくitunesの再生回数を眺めていたらART-SCHOOLの再生回数がぶっちぎりで多かった。まぁ何回再生してもカウントされないこともあるしどこまで信用していいかいまいちわからないものではあるけれど、少なくともここ最近までの僕は彼らの音楽を必要とする機会が多かったことだけは確かなようだ。

ART-SCHOOL。彼らの描く沈み込むような美しい音像は聴いた当時の僕の心を容易く抉り、それはいまなお変わってはいない。

彼ら以外の音を欲していない自分がいることに気づいたのはほんの数ヶ月前だったろうか。聴く気になれないのだ。他のものを摂取する、そんな気分になれない。じゃあいつならば?いつになればあの時のような気持ちになれるのだろうか。わからない。数年も続いてしまえばもはや嗜好の変化に相違ないのだとしても。内的要因によってもたらされたものであるならば甘んじて受け入れよう。それは僕の中で「そう」であることが適当だと判断されたものであるからだ。でもこれは違う。明確な外的要因。ウイルスのような異物。それらの「攻撃」によって生じた歪み。これは、ダメだろう。認めるわけにはいかない。納得なんてできるものではない。

シェルターになりたいと木下理樹は言う。その言葉に、弱い僕はきっと甘えたのだろう。何度もART-SCHOOLの楽曲を聴いてはその度に打ち震え、胸に去来する何かに身を任せていた。それは愉悦の時だった。楽しかったのだ。眼を瞑り現実を見つめなくて済む時間はたまらなく最良と言えるものだったのだ。

でも僕にとって音楽とはそういうものだったか?単純な音の良し悪し。好き嫌いで一喜一憂するような、とても無邪気な発露からの原体験だったはずだ。少なくとも「救い」というニュアンスを含むような歪な依存性はこれっぽっちもなかったはずなのだ。

 

THE NOVEMBERSのボーカル小林祐介氏はアルバム「At The Beginning」発売に際したインタビューで製作過程において現在のおかれた状況がアルバムの持つ意味すらも変容させてしまったことを語っていた。

THE NOVEMBERS、激変する世界の様相を捉えた“新しい物語” 『At The Beginning』に描かれた未来への眼差し - Real Sound|リアルサウンド

元々はアルバムの最後を飾るはずだった「Rainbow」における「はじまり」を予感させる未来あるラストを否定し、「いやもう未来は既にはじまってしまっているんだ」と真逆の1曲目に持ってきた。それは僕個人のパラダイムシフトと実に合致していて、このアルバムの持つ色褪せない圧倒的音像にひたすら打ちのめされている理由はこれかと思い至る。ここには「救い」などという意味はどこにも込められてはいない。ただただ単純明快な、狂おしいほどの「カッコよさ」がそこにあるだけだった。


THE NOVEMBERS 8th Album「At The Beginning」Teaser Movie

 

前回あげたものも含めて、僕自身いわゆる機械的アプローチを多量に含む楽曲に以前よりもずっと強く惹かれていることが浮き彫りになった。

mywaymylove00.hatenablog.com

バンドサウンドにおけるライブ感というものに、その変化や流動性にある種の絶対性を抱いていたことから考えるとその心境の変化に我ながら戸惑いすら覚えてしまう。

長らく続く混乱のなか、「生」のサウンドをこれっぽっちも味わえていないことがそのことに過分に影響を与えているだろうことは否定できない事実だと思う。時折画面の中からお届けされる配信映像は以前までのものとなにか違っているようにも見え、そこで今まさに行われている行為であることはなんら変わらないはずなのにどこか瑞々しさを失っているようにも映る。

魅力が失われてしまったわけではない。いわば眠ってしまっているのだ。凍るといってもいい。溶けてしまえば他愛なく僕の心を侵食してくれるに違いない。ただ心の隙間を縫うように現れた新たな勢力の台頭を僕は止められない。そして僕自身それを歓迎しているのを感じている。率直に言えば楽しいのだ。音楽を聴くことが。「これいいなぁ」とニヤニヤする気持ち悪い自分が好きなのだ。その歩みは多分拙い。あやふやで他人ならもっと上手く出来るはずのそういうもの。でも僕にとっての理想の音像を探っていく行為はこんなにも楽しい。僕はきっとずっとこういうことをしていたかったのだと思う。

混乱が納まった後で、僕の中の価値は揺らいだりするのだろうか。そうなってくれたら、めちゃくちゃ面白いことだと思う。新たに生まれた価値は既存のものを駆逐することなく、共存していくだろうからだ。狭量な絶対性ではなく、視野を広げたうえでの絶対性を。停滞ではなく、時価を。

 

音楽ってほんとうに良いものだと思うよ。ほんとうにさ。