Nothing is difficult to those who have the will.

エロゲとオルタナ。そんな感じ。ちょこちょこと書き綴っていこうと思います。

彼女のためにもこの物語は「ポップ」であり続けなければならない。遅ればせながらシルキーズプラス新作「あけいろ怪奇譚」の感想を書いてみる。

ガンナイトガール」(CandySoft)「なないろリンカネーション」(シルキーズプラス)で名を挙げたライターかずきふみ氏と同2作とタッグを組んだ年上おっぱいの伝道師・すめらぎ琥珀氏による、シルキーズプラス新作「あけいろ怪奇譚」の感想です。

本記事では個人的に感じた作中の違和感に関してひとつ語っておこうかなと思います。少しの間お付き合いいただければ幸いです。

 

ちなみに表題にある「ポップ」とは、音楽雑誌でよく目にする言葉ですが一般向けなのかいまいち判断しかねるのでとりあえず辞書を引いてみます。

ポップ(pop)

[名・形動]
大衆向きであるさま。また、時代に合ってしゃれているさま。「―なファッション」
ポップアートの。ポップアート風の。「―な感覚の色彩」「―な映像」
ポップス。また、ポップス調であるさま。「―な旋律」

 ※デジタル大辞泉より引用

 

…より伝わりやすくしたいがためにわざわざ引用したのにまったくもって伝わる気配がしない。なんだろう、ポップって音楽以外だと前衛的ってニュアンスを含んでしまうのか(困惑)。まぁ簡単に説明しますと要は明るい、親しみやすいといった程度で捉えてください。

 

 

※以下はネタバレを含みますのでご注意くださいませ。

雑感

前作「なないろリンカネーション」の流れを汲む続編(というか外伝?)であり、トイレの花子さんや十三階段など、よく聞き及ぶ学園の七不思議を中心とした怪奇現象の謎を解明していくホラーモノ。

基本的に七不思議の話題が中心となるため舞台はほぼ学園に限られてしまいますが、葛城霊能探偵事務所の所長葛城葉子、唯一の所員であるヴァンパイアのベルベット、社と同じ学園の生徒で生まれつき霊視の力を持つ雛森佳奈、社の悪友で広い交友関係から情報収集能力に長けるもホラーが大っ嫌いな極度の怖がり中島修司といった面々との軽妙な掛け合いや、独特なテンポでの喋りが印象的な土地神様のるりるかマダムエビフライ原田望といった個性的な幽霊。そしてなにより「旧校舎の幽霊」である朱子の禍々しい雰囲気などなど。随所にある存在感がお話を飽きさせず、10数時間のプレイ時間をあっという間に駆け上らせてくれました。笑いあり涙ありシリアスありの、エンターテインメントに仕上げたまさしく秀作。

前作にて登場した加賀見メンバーも、あくまでエッセンス程度ではありますが引き続き活躍を見せてくれており、彼らのその後が気になる方にもお勧めできる一品です。

システム面においては、フローチャートを導入しており前作に比べて選択肢の数が格段に増加しました。一見くだらないとも思える選択肢を誤るとそれが後々になって結末に響いてくることも多々あるためなかなか気が抜けません。個人的にはもっとBADEND直行の選択肢があってよかったかな、と感じたもののそれは次回以降に期待したいところ。

 

「ポップ」な世界観

上記でも書いてますが、前作「なないろリンカネーション」の流れを汲んでいるためか「呪い」や「幽霊」といった重い題材の割にノリが非常に軽いです。社、ベルベット、雛森佳奈、中島修司の通称「呪われましたーズ」が放課後ごとに集まって七不思議の謎を解明していく描写が主なわけですが、肝心の七不思議の内容もメインとなる「旧校舎の幽霊」はもちろん「踊り場の大鏡」「血濡れの草刈り鎌」などはこれぞ、というラインナップですが「トイレの花子さん」「漢たちの体育館」「空飛ぶ校長のヅラ」「ゼンランナー」といった彼らの通称以上に脱力感あふれるものも少なくありません。調査自体は割と真面目にしているもののシュールな展開になることが多々あります。

そういった描写において、特にヒロインの一人である雛森佳奈という存在が担った役割は非常に大きなものがあります。学園のアイドルを自認するも、徐々に本性であるクズっぷり親しみやすさが露わになっていく佳奈ちゃんは、ともすればいとも容易く陰鬱な方向に転がりかねない今作をライト寄りに留めている最大の功労者と言えます。作中様々な場面でなぜか体を張る機会が多いのも頷けます。社の姉代わりの小説家・久住美里の大ファンだったり、前作に登場した加賀見家に居候中だったりと、彼女のような色々なところに手を伸ばしてくれる便利な存在がいるからこそポップであることが保たれている、そんな気がします。

 

でもこのお話、「ポップ」すぎやしないか

前述のようにエンターテインメント性あふれる本作を存分に楽しんでいたものの序盤から個人的にどうにも納得できないこととして挙げられるのが、ホラーモノにもかかわらず日常描写が楽しすぎるってどうなんだろう?ということなんです。

まずこのお話における主人公の目的は自身にかけられた呪いを解く、というものです。四人もの女生徒が次々に自殺した学園で主人公は‟旧校舎の幽霊”である「朱子」に呪いをかけられ、このままでは近い将来先の四人のように殺されてしまう、という切羽詰まった状況であることが冒頭で説明されます。それを解決すべく葛城霊能探偵事務所の面々と学園の友人ら達と共に七不思議の調査を開始していくわけですが、彼らからはあって当然と思われる焦燥というものがさほど感じられないように思うのです。

昼休みや放課後に七不思議についてあれやこれやと語り合い、時に談笑する彼ら。

七不思議の真相を確かめるべく深夜の学園に忍び込んだりする彼ら。

時には気分転換も必要だと、調査を止めて街に繰り出しては遊びを満喫する彼ら。

七不思議の中には生徒たちのくだらない噂から派生したものもあるので、調査が空振りに終わることもままあります。彼らは徒労を覚えつつもその顛末に笑顔を浮かべていたりしています。主人公が呪いでいつ死んでしまうかも、もしかしたら明日にも五人目の犠牲者になっているかもしれないのに、彼らは楽しそうに日々の調査に赴くんです。

主人公が呪いをかけられている、という事実を忘れさえすれば、こうした描写は彼らが普通に青春を謳歌しているようにしか見えないのです。より悪く言えば登場人物たちの当事者意識をうまくアウトプットさせてくれない不整合さを見出してしまったといいますか。

誤解してほしくないのは、社が呪いにより逃げ場のない状況であることを作中で全く示唆していない、というわけではないんです。同様に焦燥感が彼らの中にまったくない、とまでは言いません。その後蘇りはしたものの、ベルベットが一度「朱子」に呪い殺される瞬間を目の当たりにしたことでこの呪いを解かなければ自分も呪い殺される、と事実として認識できたはずですし、社が日々「朱子」が夢に現れ衰弱していくも調査を続けるのはその事実故でしょう。学園の裏側ともいうべきこの世のものではない存在が跋扈する世界——通称「異界」——ではグロテスクな描写も当然ありますし、「朱子」と直接対峙することや仲間達共々危険にさらされることもけして少なくはありません。

焦燥感と恐怖。ホラーモノというジャンルとして必要不可欠なものを提示してくれているにもかかわらず、日常描写のポップ感はそれらを軽々と上回ってしまいます。

 こうしたいわゆる本編の面白さとは別のところに位置しているであろう、ちぐはぐさを意識していくにつれて「のっぴきならない事態が主人公の身に降りかかっている」ことを意識させたいのであれば、やたらとコメディ色の強い描写というのは表面的には娯楽性に繋がっているもののジャンルの本質的にはいっそマイナスなのではないか?という思いが強くなっていくのを感じました。

前作「なないろ~」も非常にポップなノリではありましたが、そちらを問題視していないのは「なないろ~」の主人公は本作のように自身に危険が及んだり必要に迫られて、というわけではなく、あくまで自分から霊関係の事件に足を踏み込んでいくというスタンスだったからです。展開上身近な人間に危機が迫ることもありましたが、その際にはシュールなやり取りなど一切見せずひたすら緊迫した雰囲気の中にいました。

このように、前作と比較したことにより違和感というものが形を成していったことは否定できません。

 

報われなかった少女・原田望について

登場人物の一人である原田望について語ります。

自殺した四人の女生徒は死後も成仏せず幽霊となり学園内を彷徨うようになりますが、原田望もそのうちの一人です。黒髪おさげに黒縁眼鏡という地味な見た目でとにかく大人しいという印象が周囲から語られていた彼女ですが、初登場時からめんどくさいくらいのハイテンションで社たちに絡んできては天井から突然飛び出してくるなど幽霊生活を満喫しています。

当初その四人は友人同士で仲が良かったという情報から「朱子」に同時期に呪い殺されたとされていました。しかし実際には他三人が望をいじめていたことが後に発覚します。

体調を崩し久々に登校してみると上履きの片方がゴミ箱に捨てられている。

教科書が自分の机からなくなっていて、途方に暮れていると明らかに自身のものだとわかる教科書を三人のうちの一人が持っていて貸してほしいならと、レンタル料を請求される。

昼休みに一人で食堂の場所取りをさせられるも結局三人は来ず教室に戻ると、強制的に預けさせられた自身のお弁当が「腐っていた」という理由でゴミ箱に捨てられている。

日常的に陰湿ないじめを受け徐々に心をすり減らしていった望はある日、三人から「旧校舎の幽霊」という怪談話を聞かさせます。曰く、旧校舎の下駄箱のとある場所に手紙を入れるとそこに書かれた名前の人物が「旧校舎の幽霊」に呪い殺されるのだと。

翌日望はいつものように登校するも、三人はその姿を見てあからさまに残念がります。そして実際に旧校舎の下駄箱から「原田望を殺してください」と書かれた手紙を見つけると、張りつめていた糸が切れたように自暴自棄になり三人への当てつけの意味も込めて、自らの意思で学園の屋上から身を投げました。

 

「旧校舎の幽霊」——水無月朱子は実在しました。望まぬ男との子供を宿され、親友だと思っていた女生徒から追い詰められ、最後には屋上から突き落とされます。自分の死後も変わらず逢瀬を続けていく二人への復讐の念は収まらず遂には彼らを呪い殺します。異界に連れ込みそこでも幾度となく彼らを殺し続けた彼女はいつしか学園の七不思議のひとつ「旧校舎の幽霊」という怪異そのものとなり果てました。けれどこのまま復讐にとらわれ続け、誰かの憎しみまで背負っていくことに疲れた彼女は眠りにつくことを選択します。

彼女を目覚めさせたのは原田望でした。旧校舎の幽霊に殺されてやった望は自身が死んでからもなんの後悔も、罪悪感を抱くことすらせずに変わらない日常を送る三人が許せなかった。そんな望に気が付いた朱子の力を借りて、望は自らの手で三人を呪い殺したのです。

その瞬間、原田望は朱子と互いに共鳴しあい「旧校舎の幽霊」となったのです。

 

彼女が望んだ日常

原田望という存在を本当の意味で知った社は彼女を成仏させるべく彼女をいじめていた三人に思いの丈をぶつけるよう促し決着をつけます。

三人への恐怖や殺してしまった罪悪感をすっぱりと断ち切った望は社に語り掛けます。

望「実はね、羨ましかったんだ~。まぁ・・・・・・社くん必死だっただろうけど、みんなで七不思議の話とかしてるの」

望「みんなでがんばろう、ってなってるの・・・・・・楽しそうで、羨ましかった」

朱子と同一の存在となった望は、朱子が生前恋い焦がれた男性に生き写しの主人公・社に惹かれていきます。それは自己から生まれた純粋な思いではなかったかもしれません。普通の女の子のように恋をしてみたい、そんな憧れの前に都合よく用意されていた恋慕を自分の感情なのだと受け入れてしまっただけなのかもしれません。そして望は社を見つめ続けます。日常を過ごす社とその周囲を眺め続けます。

 

昼休みや放課後に七不思議についてあれやこれやと語り合い、時に談笑する彼らを。

七不思議の真相を確かめるべく深夜の学園に忍び込み、その結果に一喜一憂する彼らを。

時には気分転換も必要だと、調査を止めて笑いながら街に繰り出していく彼らを。

 

そこにあったのはどこにでもある青春です。望が生前憧れた、死んでからも憧れ続けた普通の青春がそこにはありました。 

社はそんな望と七不思議について話し出します。調査をしても真相が分からずじまいだったもの。明らかにネタとしてしか思えないふざけた七不思議のこと。けれど望は死後学園を彷徨っていたことで全ての真相を知っていました。

社「校庭を走り回るゼンランナー」

望「ゼンランナー・・・・・・。全裸?」

社「全裸のランナーでゼンランナーらしいっすね」

望「あぁ・・・・・・伝説の五十嵐くんか」

社「え、ぇっ? なんすかその人」

望「一年生の人気者。体育の時間になって急に全裸になって全力ダッシュし始めたんだって。当然停学」

社「なんすかその勇者。えっ、じゃあゼンランナーって、実在の人物なんです?」

望「うん。一年生の男子の間で伝説になってて、あだ名もそのまま伝説の五十嵐くん」

社「じゃあ・・・・・・空飛ぶ校長のヅラも実際にあった事件だったりするんかな・・・・・・」

望「あ、それ私」

社「えっ」

望「校長のヅラ疑惑は、いまさら言うまでもないと思いますが」

社「はい」

望「実際どうなのかな~って思って」

社「まさか・・・・・・」

望「確認してみました」

社「先輩・・・・・・っ、先輩まじすか・・・・・・!?」

望「あんまり覚えてないけど、一階の廊下だったのかな~。校長が歩いているときに、えい! って」

社「とったんですね・・・・・・!」

望「とりました。ちょっとずらすだけのつもりだったんだけど、勢い余ってとっちゃいました」

社「ってことは・・・・・・その瞬間、ヅラが宙に浮いたわけですよね」

望「七不思議の一つ、空飛ぶヅラが誕生した瞬間です」

階段に腰かけながら楽しそうに日々を喋りあう少年と少女。

僕がこのシーンにたどり着いたとき湧き上がってくる笑顔を抑えきれませんでした。ここにきてようやく彼女は日常を取り戻したんです。CGや過度な演出なんて必要ない。どこにでもある平穏を彼女は得ることができたんです。けれど彼女にとっては何よりも特別な、ようやく訪れた幸福な時間だったに違いありません。

 

A very merry Unbirthday to you

合点がいったのはだからこそこの物語は常にポップであり続けたんだなぁ、ということです。「呪い」という非日常とかけ離れた題材にもかかわらず、望が羨む理想の学園生活を、途切れることのない日常を絶えず描かなくてはならなかったんです。なんでもない日常の延長線上にあのシーンがあるんだとユーザーに再三訴えなければならなかったんです。

ホラーモノなのにポップすぎる?そんなのは当たり前だったんです。本質はホラーなどではなく笑いあり涙ありシリアスありのエンターテインメント。なんでもない日よ、おめでとう。そのなんでもない日を送れなかった存在がいたからこそ日常のポップさはこんなにも際立って見えました。

 

終わりに

このお話を受け入れられるかは最終的に原田望という存在に好感をもてるかどうか、その一点にかかっているかと思います。望にHシーンが用意されていたことに抵抗を覚えるユーザーも少なからずいたとかいないとか。

僕の場合本作に関しては、キャラが好きとか嫌いとかそういう観点ではなくて素直にシナリオとしての着地点を求められたからこそさほど抵抗なく受け止められたというのが大きいんでしょうかね。

 

・・・・・・あとこれはもう余談といいますか、確証も何もない思い付きなんですが、担当ライターの癖というべきものが主人公に反映されていないことが少し気になっていまして。

僕はシナリオ担当であるかずきふみ氏の作品をこれまで2作プレイしています。同社から発売された「なないろリンカネーション」、きゃんでぃそふとの「ガンナイトガール」。この2作では主人公が特徴的な笑い方をするんですよね。「あははっ!」っていう。正直なんか無性に癪にさわる感じで個人的にあんまり好きではないんですが、本作「あけいろ怪奇譚」では主人公である社は僕の観測上一度もこの笑い方をしてないんです。

仮に、仮になんですがこの笑い方がかずきふみ作品における主人公たる条件だったとすると、社という存在はミステリ小説でいえば依頼人がそのまま語り部を務めてるようなもので、本質的には主人公などではなかったんじゃなかろうか?

悪口みたいであんまり言いたくないんですが、社くんのキャラデザって妙に地味といいますか拭いきれないモブ感があるんですよね。ベルベットや雛森佳奈というヒロインと並んで立ってるイメージがまったく沸かないほどに。

 

原田望の外見ってそれはもう地味でした。黒髪おさげに黒縁眼鏡。自分から「私みたいな地味女」って言っちゃうくらいには。そんな地味な彼女の隣に社くんのような地味な存在がいてくれてたのは一種の救いのようなものなのではないかと思ったり。

——報われなかった彼女に分相応な日常を。そんな意味合いを込めて社くんという存在が配置されたのだとしたら、つくづくこのお話は原田望の物語だったんだなぁと思うし、なんといいますか優しい世界万歳って感じです。