Nothing is difficult to those who have the will

エロゲとオルタナ。そんな感じ。ちょこちょこと書き綴っていこうと思います。

「楽しくあれ」と、彼女は言った。遅ればせながら「蒼の彼方のフォーリズム」の感想を書いてみる。

カナリヤです。寒い日が続いていますね。最近は雪も積もったりしていよいよ冬本番といった感じです。この年末年始はインフルエンザなどにならないよう体調管理に気をつけていきたいところですね。

さて本日は2014年にspriteから発売された青春スポ根モノの傑作「蒼の彼方のフォーリズム」の感想記事です。プレイしたのはえーとたしか今年の7月頃だったかと記憶しております。作中季節と現実感とのギャップもなんのその。僕は年中アイスコーヒーを飲むから気にしてないよ。それでは始めていきます。

 

※本記事は「蒼の彼方のフォーリズム」のネタバレを多く含みますのでご了承ください。

 

 

莉佳ルート

1番最初にプレイしたルートです。初っ端豚の角煮を鍋ごと持ってきた莉佳にやられました。家庭的な娘、いいですなぁ。料理上手で、気配りができて、親に代わっての隣人への挨拶も手土産つきで(そのチョイスは別にしても)きちんとする。でもちょっと抜けてるところもあったりとキャラとしてのその抜け目のなさ。10人が10人いい子って言っちゃうような、テンプレな感はあるけれどとても好き。お嫁さんにするなら断然この娘。ペアルックとかやりたそう。ただスポ根に全振りした本作としては、ヒロインとのイチャイチャを良い意味でどうでもよくさせるため正直影が薄めといいますか、ひとりだけ他校のヒロインということも手伝ってどうにも地味(ひどい)。

どちらかというと印象的だったのは莉佳ルートのボス役を担うですね。作中ではラフプレイを駆使して相手に怪我を負わせることも厭いません。彼女相手に試合を有利に進めていた明日香も危険なプレイで脳震盪を起こしてしまいあえなく棄権。そのダーティーさ、狂気を孕んだ言動はなかなかキャラが立っていますし、霞の繰り出す激しい技やそれへの対処などFCというスポーツの競技性が垣間見える展開はなかなか見応えがありました。しかし彼女がそうするに至った行動理由、その背景がどうにもぼやけてしまっていたのは実にもったいない。

霞がラフプレイによる相手を圧倒する戦い方を求めたのは、現在の指導者の問題も多分に含んではいるものの名門校で1年からレギュラーを張るほどの実力を持つ莉佳という存在がいたからだと作中では言及されています。彼女に追い越されないように、彼女を追い越すために、彼女を倒すために、霞は反則行為を正当化したのです。

莉佳「中略)最初は勝つとか負けるとかじゃなかったはず」

莉佳「楽しいから!楽しい試合をしたいからじゃなかったんですか!」

霞「そんな綺麗事!私は、勝つためにラフプレイをするんだ!」

しかし当時の霞が脅威を覚えるほど莉佳はFC界において将来を期待される存在でありながら、彼女の過去の成績などが一切語られないのは少々疑問が。名門校の1年生レギュラーという事実がそれを端的に表しているのかもしれませんが、霞という少女の抱き続けた苦悩をより具体的に示すエピソードがあれば、霞のあの慟哭、あの涙の持つ意味がより彩りを持って迎えられたように思います。もっとも後述のみさきルートをより生々しく描写するためにあえて霞はこの程度で済ませたという可能性が。あぁ、だとしたらより不憫に。

立場や置かれた状況は少々異なりますが、霞というキャラクターはFCから逃げなかった主人公やみさきに起こりえたIF、ということになるんでしょうか。逃げることをせず向き合い続けた末の選択。そうまでしてでもFCを、莉佳の幻影を捨てきれなかったのかなぁと考えると狂気に満ち満ちたあの姿がめちゃくちゃ健気で愛おしく思えてしまいますな。つくづく惜しいキャラではありましたが、ラストに彼女とその仲間達の柔らかな笑顔が見られたのは僥倖でした。

 

真白ルート

2番目にプレイ。このルートはある意味で1番の陽性なルートだったと思います。あと小生意気な後輩が徐々に懐いてくるの、たまんない。

本作の攻略ヒロインは全部で4人いますが、真白はその中でも例外的な存在として描かれています。溢れんばかりのFCへの情熱とそれに負けないくらいの才能を持つ明日香。調子の波はあれど抜群の身体能力を持つみさき。1年生ながらFC名門校でレギュラーを張る莉佳。そのなかで真白は、なにもありません。大好きなみさき先輩に付いてくる形でなんとなくFCを始めてしまう、中高生が部活を始めるきっかけってそういうもんじゃないの?みたいな普通の女の子として描かれています。

特別な才能も、ましてやFCの世界にのめり込んでいくに足るバックボーンもなにもない彼女は、個別ルートにおいて明日香やみさきという圧倒的な才能の前にFCを続ける意義を見出だせなくなっていくわけですが、コーチである主人公に「自分を勝たせること」という条件を提示したうえでFCを続けていく決意をすることになります。

みさきに追い縋れなかった。明日香の潜在能力を引き出せなかった。真白との約束を果たせなかった。

…だけど真白は言ってくれた。「今度は勝たせてくれ」と。

それだけで俺が頑張る理由は十分だった。

この「なにものでもない真白」っていうのはいわゆる一般的なスポーツ従事者のそれなわけですよね。物怖じしない性格はファイターが向いているのか、それとも抜け目のないキャラはスピーダーが向いているのか。何色にも染まっていないからこそあーでもないこーでもないと主人公とともに試行錯誤し自分自身のFC像を確立していく。この行程は非常に面白かったですね。成長する。できなかったことをできるようになりたい。そして得られる達成感。これこそスポーツの本分だよなぁと。

終盤では気落ちしたみさきがFCを諦めて逃げようとした際に憧れの先輩である彼女に喝を入れるべく真白が勝負を挑むという展開を見せてくれます。なにものでもなかった真白がFC選手として遠い存在にも思っていたみさき先輩を立ち直らせる、というベタベタで大変熱いお話なわけですが、このルートの主題はべつにそこではなくて、先述のようにスポーツとしての本分と言ってもいい「楽しさ」を言葉だけではなくどのルートよりも前向きな気持ちで描いてくれたという点において価値があったのではないかと思うわけです。

いわゆるマイナースポーツ、もしくは今作のように架空のスポーツというものは常にスポーツの本分とはいかなるものなのか如実に示してくれるものなのではないかと思います。なにせ「FC」という競技を僕たちは知らない。「グラシュ」という特殊な靴を使って大空を自由に飛びながら行うものという漠然としたイメージからいかにして「FC」がスポーツとして成立しているか、いかに魅力的なのかを説明していくところから「あおかな」というお話がスタートします。この序盤時点でのユーザー目線を担当するのは明日香ーー県外から転校してきてユーザー同様に「FC」のことをなにも知らない存在ーーなわけですが、彼女は持ち前の才能と「楽しさ」を失わない「バケモノ」ぶりから共通ルート終盤にはあっという間にユーザーの共通性からは乖離していきます。スポ根モノでいうところのザ・ヒーローとも言うべき明日香が持てる才能を開花させ他を圧倒する実力を身につけていく様は爽快ではありますが、僕の中でまだ「FC」というスポーツを地に足をつけて味わいたいという思いが少なからずあったこともあり、全編にわたっての真白の地道な道程というのは読んでいて心にスッと染み込んできた気がします。あと小生意気な後輩が徐々に懐いてくるの、たまんない(2回目)。

ただやはり実力的には乏しい真白だからこそ他ルートでは脇に追いやられがちといいますか、個別ルートという仕様上仕方ないのは重々承知ではありますが、部全体で明日香ひとりを鍛えていく明日香ルートの一連の流れは読んでいて特にモヤモヤしましたね。自分の技術の研鑚はひとまず置いといて明日香がラスボスに勝利するために、自身が成長できたかもしれない時間をひとりの傑出した存在に費やしていく。少し考えました。このルートの真白は本当の意味でFCを楽しめてるのかなって。

 

明日香ルート

3番目にプレイ。名実ともにこのあおかなというお話のメインヒロインというべきキャラクターで常に主人公や周囲を照らし続ける太陽のような存在。いっそ眩しすぎるくらいに。だからこそ最後に取っておくことはできませんでした。どんなときも明るさを失わない陽性キャラは彼女にするには最高です。デートシーンよかったよ。プレイ中はスポ根脳になってたのでさらーっと流してしまったけど。

本作における彼女はまさに天才と呼んで差し支えないでしょう。わずか数ヶ月で全国トップクラスの真藤と渡り合うという、階段を駆け上がるどころか超高層エレベーターであっという間に高みに上り詰めていく姿は周囲に認められていくとともに持たざる者に絶望を植付けていきます。FCとはなんぞや?という無知故の質問キャラとそのなにも知らない素人が才能を開花させていくカタルシスキャラとを併せ持つ、スポ根モノの定番とも言えるような明日香ですが、実力を付けていく描写が駆け足に感じられることもあって彼女というキャラクターに対して非常に現実離れした感覚を覚えてしまったんですよね。お話の尺や各ルートの兼ね合いもあるため致し方ない部分ではあるのですが、スポ根徹底の本作においてはヒロインというよりは気づいたら目に見える裏ボスになってたと言いますか。いっそラスボスよりよっぽどボスボスしてたと思います。ムドー明日香。

ただこの「バケモノ」ぶりは製作陣も狙って描写していた節もあり、そのことが後述のみさきルートにおけるみさきとの対比になっていくのは本当に面白かったですね。

 

ルートとしては本作のラスボスである沙希との正統派ラストバトルまでの道程を描いていくわけですが、満を持しての対決そのものは、正直言ってしまうとそこまで見応えはありませんでした。技や戦術ではなくその天才的感覚を研ぎ澄ませた上でのインフレ展開。見た目派手っちゃー派手なんですが大味な試合運びに終始困惑気味に。なんでしょうね、このそこはかとないこれじゃない感。

 

明日香ルートの内容からは少し離れますが、そもそも沙希というキャラクターの登場はお話的にもFCという競技的にも大きな転換点になってるんですよね。前者としては真藤という常に余裕を保ちながらさまざまな技を繰り出し圧倒的な実力で明日香やみさきを打ち破っていった作中屈指の強キャラをいとも容易く退ける、主人公達が乗り越えるべき存在という立ち位置。そして後者はFCという競技を一つ先のステップへと移行させたことです。

個人的にFC=フライングサーカスが綿密につくりこまれたスポーツだと感じるところはプレー中選手に絶え間無くリスク管理を強いている点にあると考えます。FCにおいて得点するためには

1.コース上に置かれたVへのタッチ

2.相手の背中へのタッチ

が必要になります。タイプ別にそれぞれスピーダー、ファイター、オールラウンダーとなにを得意とするか、なにに重点を置くかの違いはあれどジャンケンのような単純な相関関係ではなく状況の変化に伴い常に選択を迫られます。これは作中より過去に起こったというFCのルール変更が大きく影響しています。

もともとFCは現行のルールになる前は相手のどこを触っても得点となったため選手はまどろっこしいVタッチなどせず相手と相対したうえでの接近戦ドッグファイトに終始していました。しかしそれでは「空を自由に飛び回る」FCというスポーツの娯楽性・存在意義が薄れてしまうため、ドッグファイトにおいては背中へのタッチのみ得点と認めるというルールに改定されたそうです。

共通ルートにおいて真藤が随所に見せた技の応酬。その派手な演出の必要性は詰まるところ相手を出し抜くためです。いかに相手の背中を奪い得点を重ねられるかという戦術です。ルール改定後のFCはこうして空を飛ぶスポーツとしての定義を確立していったわけですが、しかしこれは共通ルート終盤において「技を多く繰り出すこと、派手なパフォーマンスがFCなどではない」と沙希のパートナーであるイリーナに一蹴されてしまいます。

FCにおいて重要なのは、相手より多くの得点を奪うことなどではなく、いかに相手より優位な状況を作り出すかであるとイリーナは語ります。「常に相手より上の位置を取る」という沙希の一見単純な戦法は、相手が沙希に対して常に背中を向けている状況になるためタッチによる得点の危険が増します。更に相手がその状況を嫌がり打破しようとドッグファイトに持ち込もうとしても常に上へ上がるための力を必要とする分不利。かつ沙希は常に相手より上にいるため当然ながら上がるための力を必要としない分接近戦においては優位性を保ったままでいます。また相手が接近戦を諦めて先のVへのタッチに移行しようとした場合でも上から下への落下スピードを加算することで(元々スピーダータイプであることも相まって)速さでも相手を出し抜けます。

要するに沙希陣営の掲げる「制空権を支配する」という一連の流れはFCにおいて常識とされてきた戦術を否定し新たな戦略の構築を成し遂げたという意味で非常に意義深いものであると同時に既存の価値観を大きく揺るがすものであるわけです。だからこそ主人公は自身のこれまでの努力が否定されたように感じ大きく動揺してしまいます。

果たしてこれをどう打ち破るのか。を、このメインルートである明日香ルートでは見たかったのですが、先述のようにインフレ展開に終始してしまったのはただただ残念というほかありません。作中最強の敵を打ち破ったことへの興奮よりド派手な描写でごまかされたという感覚の方が圧倒的に強く、このルートにおける消化不良感は満足とは程遠いものです。

メインルートであることを鑑みれば他のルートよりもわかりやすい見栄えの良い演出が必要だったんだと、そう割り切って観られたのならここまでヤキモキせずにいられたのかもしれませんが、本作にスポーツとしての多大な期待を寄せてしまったことが原因といいますか、いっそ単なるスポ根モノではない、それ以上の印象を抱いてしまったんだからしょうがないとも。だからこそ後述のみさきルートの満足感たるやそれはもう凄まじく、明日香ルートはそのための前座だったのではないかという思いがひたすらに。

ちなみにこの項で彼女にするには最高とは言ったものの、生来の陰キャな僕としては「どんなときも明るさを失わない」彼女らしさというものにプレイ中から妙な息苦しさを感じていたのは間違いありません。常に楽しそうな人って怖くないですか?それはもうまともに直視できないほどには。そうでもない?そうですか。

 

先に述べたように、主人公は共通ルート終盤で既存の価値観を否定するような沙希のプレイスタイルに自身のこれまで築いてきたものが根底から覆されるほどの絶望を感じていましたが、逆に明日香はFCという競技への新たな可能性を見出だし笑みを浮かべます。この競技への可能性の提示は個人的に大変面白くこのときの明日香の心情には共感すら覚えたのですが、このあと主人公が自身と明日香とのFCに対する感覚の差に恐怖を覚えるという描写においては明日香への本能的な忌避感という意味で今度は逆に主人公に共感を覚えてしまうという。

 

みさきルート

最後にプレイ。彼女を最後にもってきて本当に良かった。内容的にもしかしたらルートロックかかってたかもしれませんが、色々僕の気持ちが台無しになるかもですので調べません。黒髪ロング&スタイル抜群美少女ってなんだかんだミーハーで分かりやすい僕としては御多分に洩れず大好物で、第一印象的には大本命だったんですがあまりにズボラな性格。ちゃらんぽらんでいい加減な生き様に外見のギャップもあってドン引き。気心の知れた遠慮ない感じは友達としてなら100点なんだけどなーと思いつつも、共通ルート中盤時点ではそこまで評価は良くありませんでした。

しかし終盤で見せた彼女の不穏な雰囲気。いつも見せる余裕そうな立ち居振る舞いがその実自身を守るための鎧だったんだと、彼女のにやにやした笑顔が貼り付けた仮面のように思えたあの瞬間の「あ、この娘裏ヒロインじゃね?」感。

Twitterでの何気ないやり取りのなかで「みさきルートは一番面白かった」のリプをいただかなければもっと雑にプレイしてた可能性が高かったように思います。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうfeeさん。

ちなみに共通ルートプレイ中にうっかりWiki的なのを読んでしまったせいでみさきがかつて主人公にトラウマを植え付けた存在であることをネタバレされるという痛恨の自爆。でもそれもあって俄然みさきに興味が湧くという棚ぼた的なアレ。彼女の背景はまぁ半ば予想できるものではありましたが、明確になった分尚更最後にプレイしなきゃ感が高まりましたね。二度と味わいたくないけども。ネタバレ、ダメ、絶対。

 

他ルートで語られるみさきはヒロインほど焦点が当たらないということはさておき、早々にヒロインのサポートにまわったりテキトーにFCを楽しんでいるように見えるため悲壮感はそこまでありません(真白ルートにおいてはその片鱗を垣間見られます)が、主人公が彼女の苦悩に向き合うみさきルートでは彼女の暗く、黒い、醜悪な感情があらためて浮き彫りになっていきます。

みさき「明日香って、昌也の指示がなかったら、意外と単純な動きをする選手だったんだね」

黒い感情がドロドロとしたアメーバになって、筋肉の繊維という繊維の隙間に入り込んでいく錯覚。

わかっている。

これはーー他人の才能に憧れる気持ちだ。

もちろん、単純な憧れなんかじゃない。その才能を潰したくなる感情。嫉妬よりももっとたちの悪い感情。

このスポーツとは切っても切り離せない、いわば負の部分とも言える描写は莉佳ルートにおける霞がそれを端的に担ってはいましたが、攻略ヒロインとしてその内面に迫っていくことでより生々しくどす黒い感情が鮮明に伝わってきます。そしてそれは過去のみさき、そして現在の明日香に対して似たような思いを感じつつあった主人公の情動をも刺激するに至ります。

ーー今の、強くなった明日香が負けるところを見てみたい。
黒い気持ちでみさきと共感したんだと思う。直視したくない嫌なモノが広がっていくのを感じる。

みさき「明日香は凄いな。あたしより全然凄いよ」

それは見覚えのある笑顔。きっと、あの日に俺が浮かべてしまった笑顔と一緒で。

非力な自分を守るために、自分に嘘をついた時の笑顔で……。

かつて主人公は壁にぶつかり向き合うことをやめたとき、そこから這いあがることができませんでした。「光」を直視することが、「楽しくあること」と「勝利すること」の天秤に心が耐え切れずFCから目を背けました。

白瀬「……ここだけの話だけど、みさきちゃんはつまんないね」

足の裏の感覚が遠ざかるような意外な一言だった。

そして今目の前には明日香の「光」を受け止めきれず、明日香は特別なんだと引き離すことで矮小な自己を守ったみさきの姿が。主人公は彼女を立ち直らせることを誓います。なによりもあのときの自身を救い出すために。

明日香「みさきちゃん!私と試合しませんか?」

みさき「………っ」

みさき「ーーバケモノ」

これはあくまで私見なのですが明日香ルートにおける「常に楽しくあれる明日香」に引っ張り上げられた主人公が、本当の意味でFCと向き合えるようになったとは到底思えないんですよね。だって彼女は堕ちたことがない。失敗しても自身の感性を否定されてもそれを常に楽しさに変換できる(素人であることを抜きにしても)その異常性はバケモノと呼ぶに相応しい。そんな相手に対して主人公が自身を投影できたとは思えません。明日香ルートにおいては主人公のなかにとっくに答えはあって明日香という思い描いた理想像はそれを取り戻すきっかけに過ぎなかったのだとしても、それでも彼女のそれは言ってみれば暴力のようなものですらあるのではないでしょうか。だってあまりにも理想過ぎるのだ。彼女の在り方は。

同じ場所で飛んで、同じ競技をしているのに、俺は必死なのに、こいつは面白いと言っている。

楽しいって気持ちを、どこかに落としてしまってまで、ここにいるんだ。

あれは未来の俺だ。

未来の俺が、今の俺を追い抜いてしまったのだ。

だって、楽しく飛べない俺の前を楽しそうに飛んでいく俺がいるのだ。

過去に出会い、主人公に癒えることのないトラウマを植え付けていった少女ーーかつてのみさきは主人公にとっての「未来の俺」です。楽しい気持ちのままどこまでもいけたあの頃の。飛ぶことが楽しくなくなろうとも、それでもいつかまた楽しく飛べる日が来るはずだと信じ続け空を飛び続けた主人公がたどり着きたかったあの頃の。かつてのトラウマと向き合い、粘つくアメーバのような感情を、それすらもFCの一部であると、飲み込んでこその「楽しくある」ことなのだと思うには自分と同様に醜悪さを晒したみさきが再びFCに向き合うという過程を導くこと。そしてみさきルート終盤における「今度は私があんたを引っ張り出してあげる」というセリフがあったからこそです。そうしてはじめて主人公は過去の自分が救われたことを、再びFCと向き合いたいと思わせたのだと実感できたのではないでしょうか。

 

ルートの内容としては、明日香ルート同様にいかにして沙希に勝利するか。明日香という天才ではない、比べてしまえば「凡人」であるみさきがいかにして沙希の戦略を崩すのか。

明日香ルートの項でも述べましたが沙希の「常に相手より上の位置を保つ」戦術=「とりかご」は相手を完全に封じ込め、相手がどれだけ多彩な技を繰り出そうともあっさりと無効化していきます。技や身体能力に任せた、いわば力技で主導権を握ろうとするのではなく、「制空権」を奪うことで相手を追い込んでいくスタイルは作中で驚愕と困惑と、人によって様々な感情を抱かせ、共通するのはFC競技者に新たなFCが生まれたことを見せつけたことでした。

みさきルートでは明日香ルートでは見ることが叶わなかったこの「とりかご」破りを披露します。それが背面飛びです。通常空を飛ぶ場合は地面の方を向くのに対して、背面飛びでは文字通り地面に対して背を向けて飛ぶことになります。さきほど明日香の項で「とりかご」には2つの利点があると説明しました。

1.常に相手が背中を向ける状況=背中タッチによる得点が容易に

2.1の状況を打破するため上に上がるための力を必要以上に費やすしかない

背面飛びはこの2点を相手に強いるという利点をことごとく潰していく戦法です。常に相手に背中を向けることなく対応が可能となり、それにより相手より上に上がる必要性もなくなります。

一方とは従来とは180度違う(背面飛びなだけにねっ)この飛び方はその異なる感覚を養うために膨大な時間を要することになり、最悪通常の飛び方すらままならなくなる危険のある非常にリスキーなものでもあります。みさきはこの背面飛びで沙希の優位性を崩しペースを乱した彼女相手に辛くも勝利を治めます。

つまりこの一戦で「とりかご」は「制空権を支配する絶対的な戦略」などではなく、他の技などと同様の「相手を出し抜くための戦術」でしかないということを知らしめたのです。今回用いた背面飛びは奇策の類ではあるかもしれませんが、可能性を提示できたのだということが非常に価値があるポイントだったと思います。

とあるスポーツの競技性・娯楽性が明示され、そのスポーツの本質が示されていくとともに競技性が進化していく。そのなかで他が示した優位性が認知され、分析され、排他される。その過程において新たな対抗策が示され、その繰り返しの中で競技性・娯楽性が発展していく。このルートではまさにスポーツが成熟していく様が丁寧に描写されていて本当に楽しかったですね。

いやー良かった。こういうのが見たかったんだよ!

 

主人公ルートの有無

「あおかな」の感想を書くにあたって問題だったのが僕自身プレイしてから数ヶ月経ってしまったことで内容自体かなーりうろ覚えになってしまったこと。入院やらなんやらいろいろあったせいなので仕方ないことかもしれませんが、これはもうそもそも「あおかな」についてどうこう書ける状態じゃないなぁと。なので遠回りになろうともちょこっと再プレイしたり、いろんな人の感想を読ませてもらったりして記憶の呼び起こしに努めていた(にしても時間かかりすぎ)わけですが、そのなかで結構目にしたのが主人公の活躍する姿が見たかった、というご意見。

主人公はFCの元選手でありその実力は名門校高藤の主将であり昨年・一昨年に全国優勝を果たしている真藤がかつて憧れていた程。その片鱗は莉佳ルート終盤における彼女への指導のなかで実際に飛んでみせてみるシーンがちょろっと描写される程度で、彼がどのようなプレイスタイルでどのような試合運びをしていくのかという具体的なものは示されません。だからこそヒロインとの邂逅を経て過去を払拭した主人公が実際に活躍する、ぶっちゃけて言えばライバル達をことごとく打ち倒し完全復活を果たした彼の勇姿をトゥルールートという形で見たかったのではないでしょうか。

ただこのお話で再三語られてきたのはFCというスポーツの楽しさとそれに付随する苦悩。楽しいという気持ちをどこかに置いてきてまでFCという競技を追求した結果、楽しさを失わずにいる存在に追い抜かれる。楽しく飛ぶ誰かを悔しく思い、そして楽しく飛ぶためだけに費やした努力が皮肉にもそれを妨げてしまっていることへの絶望。そこからFCに対してどう向き合うのか、という答えのない、いや答えはあるけど向き合いたくない、ぐるぐるまわって、原点回帰してはまたドロドロとした粘つく感情に飲み込まれる、そういう一生付いてまわる、付き合っていかなければならないもの。

覚醒した主人公がライバル達を容赦なくなぎ払い、結果彼の思い描いた楽しいFC像を取り戻そうと、かつて彼の前に「未来の俺」が現れたようにきっとまた黒いアメーバはやってくるのでしょう。そのとき主人公はまた膝を屈するのでしょうか。他人の才能に憧れ、その才能を潰したいと、嫉妬よりももっとたちの悪い感情を抱くのでしょうか。問題はそこです。そこにどう折り合いをつけていくのでしょうか。つけられるものなのでしょうか。

このお話の最後に挿入されるのは、主人公の姉のような存在であり、初恋の人でもあり、永遠の憧れでもある葵さんとの空の上での邂逅。葵さんは翼を取り戻した主人公を空に戻し、そして自らも空へと帰る一方的な報告と決意表明をします。

楽しくあれ。葵さんに言われ続けた言葉だ。

一度は背を向けて、見ないふりをしていた言葉だった。

なのに結局、俺はこの言葉へと戻ってきた。

すべてはそこに集約されるよう、最初から決まっていたかのように。

 

でも使う人間がどん底にいる時には、この言葉は自らを傷つける凶器にもなる。

そこに至るまでの道を示して、丁寧にしっかりと手を引かなければいけない。

誰彼構わず使える言葉ではないのだ。

ーー莉佳ルートより抜粋ーー

喜びも悲しみもなにもかもがこの空で得られたもの。この空を飛び続けなければ手に入れられない。そうして手にしたものはそれがなんであれ等しく彼が長らく恋い焦がれたものであるはず。そこに勝利や敗北というエッセンスはそれ以上の意味合いを持つのでしょうか。いっそ不必要な修飾に、蛇足というものになりはしないでしょうか。

夜明けの空に映える、彼と彼女の別れの儀という情景は非常に美しかった。これからも彼らはなにかを得るために飛び続けるんだろう、飛ぶことを諦めないのだろう、楽しくあろうとするのだろうという確信めいた思いはそれだけで十分希望と呼べるものであるはずです。

 

終わりに

今回プレイしました蒼の彼方のフォーリズムは架空のスポーツを扱っていることを考えても、エロゲどころか他ジャンルのなかでもなかなか珍しい部類の作品ではあるものの青春スポ根モノの王道とスポーツの陰と陽の部分も余すところなく描写しており、その読後感、清涼感は万人に読んで欲しいと思える出来でした。

作中では地域限定のスポーツなためか競技人口自体そこまで多くない印象だったので「トーナメントよりリーグ方式のほうがいんじゃね?」とか「団体戦の要素あったほうが盛り上がるんじゃね?」とかプレイ中はいろいろ思いを馳せることもあったので続編の「蒼の彼方のフォーリズム-ZWEI-」製作中止の発表は非常に残念に思いましたけども、下手に拡げて変に萎えるような気持ちにならずに済んでよかったのかなぁとか、あぁでも沙希視点やらイリーナ視点、葵さんの話とか読んでみたかったなぁとか。結局もっとこの世界観に浸りたかったなぁというのが正直な心境だったのかも知れません。

とりあえずこの年末年始はEXTRA1やってお茶を濁すことにします。

小生意気な後輩が徐々に懐いてくるの、たまんない(3回目)。