Nothing is difficult to those who have the will

エロゲとオルタナ。そんな感じ。ちょこちょこと書き綴っていこうと思います。

2人の月日に思いを馳せる。遅ればせながらtone work's最新作「銀色、遥か」瑞羽ルートの感想を書いてみる。

カナリヤです。本日はtone work's最新作「銀色、遥か」瑞羽ルートの感想を書いてみます。1ルートだけですが、ご容赦ください。

 

※以下は「銀色、遥か」瑞羽ルートのネタバレを含みます。

 

 

 

気付けば心をくすぐられていた

愛着というやつはどういう瞬間に生まれるのかと問われれば、時間じゃないか、と僕は安易に答えてしまうでしょう。そういえば人生と称されたクラナドなんて60時間以上もかけてプレイしましたね。まぁ今となってはそこまで膨大な時間を費やすことはもはやできないかもですけど。

キャラクター達の一挙手一投足。彼らの過ごす一日一日を眺めて過ごす。次第に彼らは各々の悩みや問題に直面し、気が付けばそのお話のこれからに目が離せなくなっていく。それはとても幸せな時間ですし、そういう時間が築けることを願って、まだ見ぬ愛着を求めて、いまだに僕はエロゲをプレイし続けています。多分。

そういう意味で言えば、瑞羽ルートは非常に愛着が湧く構成をしていました。1ルート20時間にも及ぶ大容量のシナリオに対して、この長さだからこそ意味があると思わせてくれました。

そもそもこの「銀色、遥か」という作品は「およそ10年という期間を共に過ごすこと」をコンセプトにしています。ヒロインと出会い誰よりも大切な存在になっていく、そのヒロインと一緒に成長していく過程をプレイヤーが実感できるように「中学編」「学園編」「アフター編」と3部構成に分けることでヒロインとの恋を育んでいきます。

その中で瑞羽は他のヒロインとはやや異質な存在として描かれています。瑞羽は本編以前の幼い頃に既知の間柄でありいわゆる幼馴染に分類されます。対して他ヒロインは義妹である雪月を除いて本編開始時点で主人公と面識すらありません。

(※ちなみに雪月との違いは「プレイヤーが知り得ない記憶・思い出をより多く所有しているかどうか」に過ぎませんが、雪月ルートにおける回想エピソードは中学編で既に出尽くした感があるのは否めません。雪月は本編開始時点から1年半前に主人公と初めて出会っていますが、瑞羽は主人公と同じ幼稚園に通っていたころからの仲で彼女がスケート留学のためロシアに行く2年前まで交流がありました。その圧倒的な蓄積だけ見ても瑞羽に分があるかと。)

瑞羽ルートでは幼い頃の彼らだけが知り得る微笑ましいエピソードが語られることが何度かあります。劇中では描かれない彼らの過ごした時間をこれでもかと感じさせてくれるこの瞬間。それがなぜこの上なく心地よく響くのか、それは瑞羽というヒロインが10年「以上」の月日を共に過ごしたという意味を持っているからです。

上述した通り、およそ10年という期間を共に過ごすことをコンセプトとした本作で唯一他のヒロインよりも前に主人公と幼馴染という関係を既に築いていて、記憶・思い出を積み重ねているという事実。このアドバンテージが後述する伏線回収に大きく寄与していますし、本編以外のエピソードを味わえることで日常描写の幅が広がっています。

幼馴染エピソードの中には詳細には語られないものもあります。主人公や瑞羽の口から「そういえばこんなこともあったね」などとサラッと語られる程度のほんの些細なもの。その当たり前のようなライトさが冗長にも思えた本作に含み・変化を持たせてくれたことはまさしく僥倖でした。

冗長。そう冗長でした。はじまりからゴールを描くと謳うも、ただ目の前に用意されたなんでもない日常を読み進める、そんな変化のないぬるま湯に浸る心地良さはその冗長さゆえ長くは続かなかったように思えます。ですが物語をあえて多く語らない。プレイヤーとの意識共有を必要以上に図ることなく、彼らの中だけに留める。だからこそ瑞羽ルートにおける彼らの語るエピソードは一層特別なものに昇華していってくれました。

 

 

共有する時間の徹底した描写

一般人の主人公とスケート選手である瑞羽。二人は恋人同士とはいえ違う時間を過ごしているはずです。主人公は部活にアルバイト。ヒロインは大会に向けて日夜スケートの練習。それらはほぼ交わることはないし、それが二人の距離に繋がってもおかしくないくらいには異なる世界がそこにはあるはずです。

瑞羽は(本編開始時点では調子を崩してはいますが)スケート選手として将来を嘱望されており、また抜群のプロポーションと眉目の良さから世間的な人気も非常に高いだろうことは想像に難くありません。

以下に作中で提示された瑞羽の人気・注目度の高さを窺い知れるエピソードを挙げてみます。

 

・中学編、留学先のロシアから転校してきた瑞羽に興味津々も彼女の人を寄せ付けない態度を見て遠巻きに見つめるしかないクラスメイト

・瑞羽と知り合いだという主人公に「如月瑞羽…ってええええーーーー!めっちゃ有名人じゃーーーーん!」と異様に驚く雛多(ヒロイン。一番可愛い

・瑞羽が怪我をしてしまった際には、年内のスケート活動中止の会見を生放送で大々的に報じる

・怪我から復帰後すぐにアイスショー出演を打診され、イベントの目玉として扱われる

・学園編の卒業式にて「人気スケーターにアドバイスもらえちゃうなんて」という椛(ヒロイン。地味)の発言

 

しかし上記のような描写があっても瑞羽がスター選手であることを作中ではなぜかそれほど感じられません。それは瑞羽というヒロインが一般人である主人公と並んでいても違和感のない、単なる普通の女の子に過ぎないとプレイヤーが感じられるように日常描写に相当の時間が割かれているからだと思います。これは登場人物たちも必要最低限に抑えられ、極力お話が狭い範囲内で進行するように、そして主人公とヒロインがなるべく多くの時間を共有できるように構成されていることからも明らかです。

僕は当初、いずれ彼らの関係がギクシャクしていく展開が挿入されるのではと考えました。幼い頃から勝負の世界に身を置いている彼女との付き合いに何者でもない主人公が気後れしたり、学校やスケートの練習など忙しなく時間に追われることで時間が合わなくなり、そうしたいくつもの要因が重なることで2人の関係に「差」が生まれてくるのだろうとひどく安易にそんなイメージが頭に浮かびました。しかし日常描写の四六時中彼らはずうっと二人でいます。それぞれ合間を縫っているのか時間をできる限り共有し存分にイチャイチャし、それをプレイヤーに余すところなく見せつけてきます。

もっとも描写がないだけで、プレイヤーの知らない部分で2人が互いに「差」を感じるようなことは起こっているかもしれません。けれどそれを作中で詳細に描写してしまえば主人公とヒロインの格差の表現に繋がりかねません。2人で支え合うというコンセプトを追求する上で明らかに不必要な要素でしかないと製作側は判断したのだと思います。

 

学園編の終盤、卒業後は自立を求めて一人暮らしをするつもりだという主人公に、瑞羽は「毎日会いに行く」と言い主人公も最初はそれを歓迎します。ですが主人公の次のセリフで、

「瑞ねぇって結構有名人だろ?男が1人で住んでるところに出入りして、変な噂とか立たないかな?」

あくまで僕が見過ごしていなければの話になりますが、おそらくこれが主人公が瑞羽の世間的な認知度に、またそんな2人の立場の違いに言及した最初のセリフです。関係が進展しない中でのものならばまた違った意味を含んでいたのではないでしょうか。幾度となく身体を重ねて肉体的・精神的な結びつきを強くしたからこそ、そうして2人が共に互いを支え合うことが決定的になったからこそなんの衒いもなく口を衝いて出た言葉。

主人公(以下主)「俺の部屋にくるのは、控えた方がいいんじゃない?」

瑞羽(以下瑞)「それは、却下。あなたの成分が不足して、欠乏症にかかって死んじゃうわ」

主「まぁ、大学や外でも会えるし、俺の家だけ控えるってことで」

瑞「あなたに会えるのに会えないなんて、禁断症状を起こしちゃうに決まってるわ」

「差」を描くことなく2人の互いへの配慮が空回る気配すら感じさせない相手への信頼・愛情に満ち満ちたセリフの数々は非常に心が暖まりますし、結果的にそう思わせてくれたこの長い時間への愛着をとても大切に感じるようになりました。

 

またエロゲではとにかくヒロインがメインとなるので彼女の道程はきちんと描いてくれるものの、彼女と一緒に生きていく主人公は蔑ろにされがちなものもあります。例えばヒロインが夢を追いかけエンディングで憧れの仕事についていたとしましょう。そして主人公はなんだかんだでその彼女をサポートしている、という描写を極めて雑に描写して終わったりします。このさもヒロインの夢に乗っかっただけのような描写をみるたびに、主人公への好感度と共に作品への評価も下がっていく感覚を抱いたことのある人はきっと僕だけではないはずです。

瑞羽ルートにおける主人公はアスリートである彼女の夢を支えるために、スポーツ栄養学を学び日々の食事や怪我をしたときはそのリハビリも含めて、彼女に寄り添いながら懸命なサポートを続けます。しかし就職の時期が近づくにつれ彼は両立できない苦悩を抱えます。彼女を支えるためいち早く就職し、独り立ちして一刻も早くプロポーズして本当の意味で彼女と共に生きていくべきか。それとも教授の誘いを受け大学院に進みスポーツ栄養学を学び続けるべきか。

いち早く就職したいという思いはまず間違いなく既にスケート選手としての地位を築いた瑞羽に釣り合うような存在になりたい、という潜在的な焦燥感ゆえにでしょう。

けれどサポートをし続けた選手がいい成績を残したとき、それを感謝されるとき。彼は一緒にがんばってきたことに喜び、これまでにない達成感を抱きます。

『もっと学んで、もっと研究して、もっと多くの人の手助けをしたい』

彼女のため。それだけだったはずの目的が徐々に別の意味をも持ち始めてしまい、彼は自分がこの先どうするべきなのか悩みます。

しかし瑞羽は主人公が進路のことで迷っていることに気づいていました。

瑞「やってみなさい。私のことは気にせず。あなたの好きなことを、全力で。応援するから」

瑞羽をはじめ、常に周りのことを優先させてきた主人公が初めて見せた「夢の形」。それがどれほど大事なものか。主人公が彼女を支えてきたように、今度は彼女が彼の背中を押すのです。

瑞「幼なじみなのに、まだ私のことを理解できてないみたいね。私は、あなたが思ってる万倍は面倒くさくてしつこい女よ。一生だって、待つ気でいるんだから」
瑞「私たちの関係は、変わらずここにある。私はそれだけでも、じゅうぶん幸せよ」

 最後のセリフは10年以上にも及ぶ長い長い時間を共有したからこそ、主人公に対して、そして画面越しに見つめるプレイヤーに対しても確かな説得力を持って受け止められるのだと思います。

 

 

見え見えの伏線回収はこんなにもニヤニヤが止まらない

ふく‐せん【伏線】の意味

1.小説や戯曲などで、のちの展開に備えてそれに関連した事柄を前のほうでほのめかしておくこと。また、その事柄。「主人公の行動に伏線を敷く」

2.あとのことがうまくゆくように、前もってそれとなく用意しておくこと。また、そのもの。「断られたときのために伏線を張る」

出典:デジタル大辞泉小学館

 

学園編正月の神社でのお参りにて。一緒に願い事をした後、2人でさっきした願い事の当てっこをすることに(バカップルめ、幸せになってしまえ)。しかし主人公は瑞羽の願い事を当てられず時間切れ。

瑞「ということで、あなたには残念賞を進呈します。願い事の内容は…」
瑞「あなたのこと」
主「え」
瑞「これ以上は、教えてあげな〜い。お願いが叶わなくなっちゃいそうだもの」
主「そういう中途半端なのが、一番気になるんだけど…」
瑞「ずっと悩み続けてなさい。私の願い事が叶ったときに教えてあげる」
主「それ、いつ?」
瑞「さあ。5年後か、10年後か、15年後か…あなた次第かしら」

その後、2人でおみくじを引くことに。

主「『今の良縁を逃せば、生涯を孤独に送ることになる』」
主「え、なにこれ、怖い。俺、おみくじに脅迫されてる?」
瑞「くすっ、けど、考えようによっては、今、良縁に恵まれてるってことでしょ?ほら、良縁」
嬉しそうに、恋人繋ぎをした手を揺らす。
主「俺は、その良縁を逃したら、一生恋愛できないっぽいけどね」
瑞「いいじゃない。良縁を逃す気、ないでしょ?ない、わよね?」
主「瑞ねぇ…なんか顔怖いよ?」
主「もちろん、ないけどさ」
瑞「きっと、神さまはこういってるのよ。今の良縁が運命だから、次の良縁なんて、あり得ないんだよ、って」

主「そういう瑞ねぇの内容は、どうだったの?」

瑞「恋愛運…『最良の相手。早く縁談を取り纏めよ』。縁談…取りまとめちゃえばいいらしいわよ?」
主「みたいだね…」
瑞「早く取りまとめないと、どうなっちゃうのかしら?」
主「さぁ…」
瑞「神社って、神前式よね?」
主「なに考えてるの」
瑞「あなたが結婚してくれなくて、婚期を逃しちゃったらどうしてくれる気?」
主「いや、瑞ねぇ本気にしすぎだから。こういうおみくじって、量産型だから」
瑞「そんなのわからないじゃない!さっきの願い事、いますぐここで叶えて!」
主「なんのこと!?」

 

幼馴染である瑞羽だからこそ可能なとっておきの見え見え伏線回収も存在します。

中学編。回想にて幼い頃の主人公は瑞羽の誕生日に花束をプレゼントしようと思い立ちます。「フィギュアスケートは好きな選手に花束を贈るもの」母からその話を聞いた主人公は大会を間近に控える瑞羽を喜ばそうと少ないお小遣いを持って花屋に向かいます。けれどお金が足りず花は1本しか買えません。しかも花はスケート選手がいい演技をしたときに観客が投げ入れてくれるものだと知り、主人公は落胆します。そんな主人公に対して瑞羽は満面の笑みでその1本のピンクのバラを受け取り、主人公の両手を“ぎゅっ”と握りしめ大会で素敵な演技をすることを誓います。

『はじめて花をプレゼントしてくれた主人公に金メダルを見せてあげたい』

その思いの元、彼女は見事に優勝を飾ります。ピンクのバラの花言葉は上品、しとやか、美しい少女、温かい心。そして恋の誓い。


変わってアフター編。瑞羽はアイスショーにて望まぬウェディングドレスを着させられてしまいます。結婚前に着ると婚期が遅れるというジンクスもあって嫌がるも、それでも喜んでくれる観客のためにと笑顔を浮かべながら出場を決める彼女。

無事ショーが終わった瑞羽でしたが突然現れた友人らに無理やりスケート靴を履かされ、分けも分からず再びリンクの中央に。するとそこには主人公の姿がありました。スーツを着て幼い頃と同じように1本のピンクのバラを手に持って。彼はおもむろに彼女の前に跪き、指輪を差し出します。

主「略)間に合ったね?」
瑞「え」
主「ウエディングドレスを脱ぐ前に。婚期、遅れなかっただろ?」

おそらくはプレイ済みのエロゲーマーがこぞって名シーンに挙げているとは思いますが、あえて語らせていただきました。それでも僕の稚拙な文章で感動が損なわれないように多くは語らずに。美しい少女と、彼女に温かい心を芽生えさせた男の子との恋の誓いが結実していく様は何度見ても心がほっこりする素晴らしいシーンですが、実はこの美しい演出、OPムービーで軽くネタバレがされていました。

この画がある程度頭に残っていて、かつ中学編の回想におけるピンクのバラのエピソードを観れば、上記の氷上のプロポーズの場面は自ずと頭に浮かびます。主人公や周囲の人間たち「チームミズハ」の面々が裏で暗躍しこのサプライズに向けて着々と準備を進めるも、どんどんブルーになっていく瑞羽。この時点でプレイヤーにはその後の展開へのさしたる驚きなどありはしませんが、それがいい。それでいいのです。この茶番のようなやり取りをずうっと眺めているのが僕らエロゲーマーは楽しくて仕方がないのだから。

チョコドーナツ!!

 

 

終わりに

1ルート20時間という大作をプレイするのは本当に久々で、日常的にプレイしていた昔を思い出して、よくやってたもんだと過去の自分を少し尊敬する気分にもなりました。ですが、冗長とも思える時間の中で紡がれていく思いの結実していく様、その尊さを改めて実感できましたしエロゲっていいもんだなという原点に立ち返ったような、そんな高揚感に胸がいっぱいになりました。

…とはいえ他ルートのプレイは、まぁ時間が有り余って気が向いたときにでも。なにやら評判の悪いルートもあるそうですし。美しい思い出をそのまましまって放置する可能性は高そうですがそこはご愛敬。社畜上等の今の僕にはこれが精いっぱいなのだー…。