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エロゲとオルタナ。そんな感じ。ちょこちょこと書き綴っていこうと思います。

遅ればせながらthe pillows20thアルバム「STROLL AND ROLL」のレビューを書いてみる

 

STROLL AND ROLL 初回限定生産盤 (CD+DVD)

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the pillows20thアルバム「STROLL AND ROLL」のレビューを書いてみます。

 

 

活動休止後2枚目のアルバムとなった今作は、長らくサポートを務めていたベーシスト鈴木淳アレしてしまったこともあり前代未聞のベーシスト5人体制に。メンバーは以下の通り。

 

 

普段から親交のあるJIRO、宮川トモユキ、そして近年pillowsでサポートを務めている有江嘉典といった面子は妥当な感じもしますが、ソングライター山中さわおを誰よりも早く見出し共にバンドを組むも、互いのエゴを消化できず脱退した初代リーダー上田ケンジ。そして上田ケンジが抜けた後、試行錯誤を繰り返しオルタナロックというスタイルを確立するまでのpillows第2期を支えた“盟友”鹿島達也が名を連ねるとは…!いやはやバスターズにはそれだけでたまらないものがありますな。

それではさっそく1曲目から参ります。

 

1.デブリ


ベース:鹿島達也

王道のロック。流れるようなギターが初っ端からかっこよすぎる。
こういうゴリゴリのロックンロールをトップに持ってくるのってホントに珍しい。前回のアルバム「MOONDUST」における"オルタナの封印""ロックンロールへの回帰"をさらに意識した、改めてロックンロールを追求するという挨拶代わりの1曲目。
 
歌詞に関しては、“pillowsは末期に突入した”という山中さわおの宣言に相応しい人生の終着点を意識したものとなっているが、散りばめられたフレーズを拾っていくとなかなか面白い。
 
まずタイトルであるデブリ。正式名称はスペースデブリ人工衛星の打ち上げやロケット切り離しによる宇宙ゴミのことであり自身、あるいはpillowsをデビューから早26年のおっさんバンド(笑)のそれに例えたのだろうか。こうした皮肉めいた言い回しは「ストレンジカメレオン」「New animal」などと同様な、まさに山中さわおお家芸。特に「New animal」の印象的なフレーズである“砕けた僕は風になるだけ”はそのままデブリに通じるように思える。
死ぬのにもってこいの芝居がかった夜に
窓を叩く赤いコウモリ
久しぶりじゃないか 丁度会いたかった
上空まで案内してくれ
 赤いコウモリ=RED BAT
RED BATとは山中さわおがpillows活動休止期間に発表したソロアルバム「破壊的イノベーション」に収録された曲で、かつ、山中さわおプロデュースブランドにもその名を冠している。そんな曲を初っ端にもってくるとはなんとも印象的ではないか。
歌詞を簡単に意訳してみれば、「バンドの状態が最悪すぎて活動休止したけど、その間はソロでもやりますか!やりたいこといっぱいあるんだよなぁ」みたいな。いや当時はそんな明るくはなかったんだろうけども。
他にも音楽界の異端児と言われた人物、ジムノペディが歌詞に登場していて、オルタナなpillowsとの親近性を感じさせたりと遊び心に富んだ曲。
誰も知らない場所で夢をひとつ手放した
孤独な儀式を済まして終わりを待ってる
祈ることもなく
Good night,baby

 ソロという“メンテナンス”を経ての活動再開。そしてpillowsは末期へ——という意味なんだろうけど、誰も知らない場所で手放した夢、というのはまさしく彼のことなのでは、と密かに思ってみたり。わざわざPVに骸骨のマスクをかぶせたベーシストを登場させてるのも意味深なんですよね。

 

2.カッコーの巣の下で


ベース:JIRO

先行配信シングル&ライヴ会場限定シングル。救いのない現状から明日への希望を謳った非常にメッセージ性の強い、今作のリードトラック。

手をつないで行こうぜ
そこに愛があるなら
こわくないだろう
手をつないで行こうぜ
昨日に笑われても
明日と笑っていよう
手をつないで行こうぜ

 真っ直ぐなその歌詞。元来ひねくれ者のpillowsにはまったく似つかわしくない希望あふれるフレーズ。26年を経た今だからこそ、なんて言葉は陳腐かもしれないけど、それでもやっぱり重たくのしかかってくるものだと思うな。

 
ちなみに山中さわお曰く、育児放棄がテーマであり、タイトルも映画「カッコーの巣の上で」における精神病院の蔑称ではなくカッコーの性質である托卵(=育児放棄)を意識したもの…という指摘を友人からされて、初めてその関連性に気づいたとのこと。
 
ほとんどの楽曲で一人称は「僕」を使用する山中さわおが「オレ」という表現をするのもこれまた珍しい。
おそらく1人のアーティストの我、感性を押し付けるようなものではなく、明確な世の中へのメッセージを意識したからこそ「僕」とは異なる線引きがそこにはあったのではなかろうか。
 
 
3.I RIOT
ベース:上田ケンジ
と思ったらここでも「オレ」使ってるし…orz
 
本能のままにライヴで盛り上がりそうなシンプルタテ乗りのロックンロール。
韻を踏んだ歌詞が印象的。
Never on time! get up!
寝返りたいヤツは手を上げろ!

 ………こうやって書き出すとなんだかとてもダサ(ry

 

歌詞はもうそのままの意味。甘美なジャンクと完璧なジャンプを手に入れるべく、見つけた手段はブルースドライブモンスター!

(両手を突き上げて)アウイエー!

 
 
4.ロックンロールと太陽
ベース:有江嘉典
個人的に今作で1、2を争うくらい好き。アルバム製作中ロックンロールな曲が増えていったことからそれを意識してのナンバーとのこと。タイトルが直球すぎる。
曲に関してはどシンプルなロックンロール。単調ながらもその耳心地の良さはまさにpillowsの本領発揮といっていい。
冷えたコーラ 熱いDJ
キミと二人 ドライブ
星にもっと響け ミュージック
キミと二人 スマイル
「キミ」と、そしてロックンロールと寄り添うその情景が非常に魅力的に映る。
アルバム曲でありながら曲調、そして歌詞は今作を象徴するかのような不思議な存在感を放っている。
 
5.Subtropical Fantasy
ベース:宮川トモユキ
末期版「彼女は今日,」
優しいコードがスルッと胸に染み込んでくるラブソング。
山中さわお曰く“異性との距離の縮め方もわかんない感じの世界観”
偶然 街で出逢いたい
キミの噂を聞いてみたい
濡れた髪に触れてみたい
キミの涙を拭いたい
 
さっきもキミを思い出していた
何度もキミを思い出している
明日もキミを思い出すだろう
けど名前も知らない
 「彼女は今日,」が思わず胸を締め付けられるような、あからさまな恋の終わりを描いているのに対して、この何にも始まってない感じ。確かにふわっとしてる。
 
 
6.エリオットの悲劇
ベース:上田ケンジ
遊び心なしの歌詞とその曲調。そのスタイリッシュさが初期pillowsを思い起こす。
砂嵐に息を止めて
キミのこと思い出す
もう一度だけその優しい
歌を聞かせてくれ
I'm waiting for hard rain
And I'm the end
That's easy
I'm waiting for hard rain
And I'm the end
Say good-bye
 この余裕のない、目の前のすべてが陰鬱に映る、どこか映画的とも言える感覚はまさしく初期。ベースが上田さん、ということもあってわざとそっちよりにしてるんだろうけど改めて当時の悲痛な精神状態を窺わせますな。
 
 
7.ブラゴダルノスト
ベース:有江嘉典
ロディアスなアルペジオのフレーズが非常に特徴的なナンバー。
通り過ぎた愛の優しさに
くるまって眠りにつく
無数の星が煌く夜空よ
僕は生きている 今もここで
  ブラゴダルノスト=ロシア語で「感謝」の意。
青春時代を過ごした小樽から、現在の自分に引き戻す過程が非常にノスタルジック。
 
 
8.レディオテレグラフィー
ベース:有江嘉典
好き(直球)。
FM802の年末イベント「RADIO CRAZY」に参加した際に製作したもの。テーマは「私とラジオ」こちらもどシンプルなロックンロール。だがそれがいい
僕らの日々を彩るデコレーション
魔法のスピーカー 何度でも歌ってくれ
孤独な夜の静寂を剥ぎ取った
時代を貫くメッセージと
ロックミュージック
 当時はインターネットなんて便利なものはなく、ロックと触れ合う手段はもっぱらラジオに限られていた。スピーカーから流れてくる言葉と音が、時代に流されることなく歌い続ける山中さわおの現在を支えている。
 
 
この愛嬌溢れる歌詞はホントに聴いてて楽しいとしか言いようがない。
 
9.Stroll and roll
ベース:JIRO
Stroll=散歩の言葉通り、非常に軽い曲調にも関わらずこれまでの26年の軌跡を辿るかのような歌詞は、まさしく表題曲に相応しい。
さあ行こう
あてのない旅路を
手ぶらで足の向くまま
あらすじが読めない物語
作者も読者もページ捲るだけ
 時代に立ち向かい、傷つき、ポリシーを捨てて、けれども結果に結びつかず、絶望しつつも抗い続けて、そうしてたどり着いた場所。肩肘を張らない自然発生的な言葉の数々は山中さわおの充実した今の状態がダイレクトに伝わってくる。
 
ちなみに初期を意識して書いた「エリオットの悲劇」では砂漠にいた「僕」が絶望にとらわれ、一種の消滅願望を抱えたまま物語は幕を閉じる。しかし現状——すなわち末期——を歌う「Stroll and roll」ではこんなフレーズがある。
砂漠で立ち止まれば終わり
歩き続ければどこかに着くぜ
 この関係性は果たして意識して書いたのだろうか。いや絶対狙ってる。
 
 
10.Locomotion,more!more!
ベース:有江嘉典
ラストを飾るはこれまたシンプルロックンロール(この言葉何度使っただろう…)。pillowsと言えば表題曲でしんみりさせつつ最後は軽やかに盛り上げてさわやかな終わりを演出してくれるのが十八番。
“ロックンロールの無敵感”
この歌を表すのはもうこの言葉だけでいいんじゃないかな。
 
 

まとめ

今回のアルバムのテーマは「ロックンロール」「郷愁」といったところ。山中さわおの“ロックンロールをより意識した"という言葉通り、ロックンロールがアルバムの多くを占めている一方で、ファンがクスリとできるような、そんな過去の楽曲を意識させてくれる構成やフレーズが非常に多くありました。「Subtropical Fantasy」「彼女は今日,」の親近性はその最たるもの。ただそれはファンだけが懐かしいと思える感覚ではなく、山中さわお自身も音楽との向き合い方を改めて意識したからこそそうしたものを散りばめたのではないでしょうか。

「ロックンロールと太陽」「ブラゴダルノスト」「レディオテレグラフィー」では山中さわおが青春時代に音楽と出会い、のめりこんでいき、そしていつしか日常と化していく様が描写されていて、まさしくそれはpillowsとともに過ごした僕の青春時代そのものでした。

さあ行こう
あてのない旅路を
手ぶらで足の向くまま
あらすじが読めない物語
作者も読者もページ捲るだけ
「さあ行こう」と促すもその先に本来あるべき、目指すべき明確な何かはありません。
 
ねじ曲がった時代なんて関係ない(Please Mr.Lostman)
自分達のやりたい音楽を追い求め続ける一方的な意思表示とも、
 
遊び足りないぜ 誘いたい(Wake up! dodo)
自分達と同様にロックンロールに目覚めてほしいという思いとも、
 
キミを連れて行くって決めたんだ 悪いけど(PIED PIPER)
バスターズをロックンロールに引き込んでいく情景とも異なる、日常に溶け込んでいく音楽。それこそが今のpillowsのスタイルなんだと思います。
 
全体を通して軽やかな印象が本当に目立つ今作。インパクトのある楽曲もさほどありませんがテーマ性が一貫しているためか初っ端からラストまで聴き込ませてくれる構成は、古参バスターズはもちろん、はじめてpillowsを聴く方にも自信をもってお勧めできます。けれどその軽さは鬱屈とした何かを常に表現してきたが故の、到達点としての軽さなんです。